今週は小川加恵さんと仲道祐子さんをお招きして、過去の大作曲家たちが使っていた当時のピアノ「フォルテピアノ」の魅力と特徴をお伝えいたしました。モーツァルトやショパンが使っていたピアノは、現代のピアノとはずいぶん違っていたんですね。
まず、なによりも音色が違います。現代のピアノに比べると、ずっと軽やかで、キラキラと輝くような音色が響きます。仲道さんが鍵盤は浅くて軽いとおっしゃっていましたが、細かい音符の連続もさらりと自然に弾けてしまうようです。なるほど、こういう楽器があったから、モーツァルトやショパンの傑作が生まれたのだと納得できました。もし当時に現代のピアノが存在していたら、モーツァルトもショパンも別の作風で曲を書いていたかもしれませんね。
ピアノはクラシック音楽の歴史とともに大きく変化を遂げてきた楽器です。バッハのようなバロック時代の作曲家たちは、フォルテピアノのさらに前身のチェンバロ等の鍵盤楽器を用いていました。モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンらの時代に、フォルテピアノはどんどん改良され、音域も広くなり、それにともなって作曲家たちが書く作品も変わってきました。
近年のクラシック音楽界では、作曲家が存命中だった頃の楽器や奏法を用いて、作品本来の姿を尊重しようという考え方が広まりつつあります。今秋ポーランドでは第1回国際ショパンピリオド楽器コンクールが開かれました。これはあの有名なショパン国際コンクールと同一の組織が開催しているコンクールで、参加者が弾くのはピリオド楽器、つまり当時の楽器のみ。第2位に日本人の川口成彦さんが入賞してニュースになりました。
古い時代の音楽を演奏するにはフォルテピアノはすばらしい楽器です。ただし、フォルテピアノは現代のピアノのようなパワフルな音を出すことができません。サロンには適していても、コンサートホールのような大空間を音で満たすのは無理な話。次第に人々はより強く、より輝かしい音を出す楽器を求めるようになり、ピアノは現在の形へと姿を変えていったのです。
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大作曲家が愛したピアノを知る休日
巨匠VS吹奏楽部の音楽会2018
日本を代表するトップ・ミュージシャンたちと名門吹奏楽部が共演する「巨匠VS吹奏楽部の音楽会」。昨年に続いて、今年もフレッシュで生き生きとした演奏を聴くことができました。憧れのミュージシャンを前にして、実力を100%以上出し切る高校生たちの姿が眩しかったです。
トロンボーンの中川英二郎さんは、柏市立柏高等学校とともにスパークのトロンボーン協奏曲を演奏。スパークは吹奏楽で人気のイギリスの作曲家です。軽快なラテンのリズムに乗って、はじけるような明るいサウンドが聞こえてきました。中川さんのソロと高校生たちのトロンボーンの掛け合いが楽しかったですよね。これぞ協奏曲の醍醐味といっていいでしょう。
オリタノボッタさんは東海大学付属高輪台高等学校と自作の「ティアーズ・オブ・ムーン」を共演しました。バラードをいかに情感豊かに演奏するかがテーマ。心が折れそうになりながらも前向きにがんばる女性を応援する気持ちが表現されているというこの曲、高校生にとっては少し背伸びが必要な音楽のようにも思ったのですが、本番の演奏は陰影に富んでいて、音楽の自然な流れが心地よく感じられました。
抜けるようなハイトーンでおなじみのエリック・ミヤシロさんは、習志野市立習志野高等学校とウェザーリポートのヒット曲、「バードランド」を演奏してくれました。エリックさんの「人が多くなるほどリズムの明確さがぼやける」という指摘には納得。ドラムの重要性がよくわかります。この課題にこたえて、高校生たちは大編成にもかかわらずキレのある演奏を実現していました。聴いていて楽しい気分になります。
それにしても、高校生のみなさんが舞台上でしっかりと話せるのにはびっくり。客席にはお客さんがいっぱい入っているのですが、緊張しないんでしょうか。みんな、すごい!
吹奏楽で聴くユーミンの音楽会
今週は「吹奏楽で聴くユーミンの音楽会」。ユーミンの名曲をリアルタイムで経験した世代は懐かしさでいっぱいになったのではないでしょうか。
でも、ユーミンの曲って、時代を超えて伝わっているんですよね。ご本人がサプライズで登場しましたが、舞台上の高校生たちの感激ぶりは半端ではありませんでした。もちろん、客席にとってもこれはビッグ・サプライズ。突然のユーミンの登場に客席はざわめきが収まらないといった様子で、収録の間じゅう、ずっと普段とは違った特別な興奮があったように思います。同じホールの客席でユーミンが演奏を聴いているというシチュエーションは、なかなか経験できるものではありません。
習志野市立習志野高等学校、東海大学付属高輪台高等学校、柏市立柏高等学校は、いずれも吹奏楽部の名門校。さすがにみなさん演奏がうまい! アンサンブルとしてもとてもしっかりしていますし、ソロの部分も見事で、高校生でこれだけできるんだという感動がありました。
今回のように本来は歌詞のついた曲を、吹奏楽で表現するのはなかなか難しいことだと思うのですが、高校生たちが原曲の歌詞に込められた思いを演奏で表現しようと努めていたのが印象的でした。なかには大人の失恋のようなテーマを扱った曲もあるわけですが、高校生なりの表現意欲が伝わってくるのがほほえましかったですよね。柏市立柏高等学校のように、振り付けを活用して視覚的な表現も盛り込むというアイディアも秀逸でした。なによりステージが楽しくなるのがいいですね。
最後の「ルージュの伝言」は3校による合同演奏。160名という大編成の吹奏楽が実現しました。これも振り付け入りの演奏で、高校生たちの弾けっぷりには圧倒されるばかり。ユーミンの「ポップスは聴き手に届いて完成するもの」という言葉通りの光景で、音楽の力を実感せずにはいられませんでした。
出光音楽賞 受賞者ガラコンサート
今回は、東京オペラシティ・コンサートホールで開催された第28回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けしました。受賞者はサクソフォンの上野耕平さん、ヴァイオリンの辻彩奈さん、チェロの岡本侑也さんの3名です。
「もっと多くの人にクラシックのサクソフォンを聴いてほしい」と語るのは、すでに多方面で活躍中の上野さん。サクソフォンはクラシック音楽の世界では比較的新しい楽器です。モーツァルトやベートーヴェンの時代にはこの楽器はまだありませんでした。サクソフォンの作品が盛んに書かれるようになったのは20世紀に入ってから。イベールの「アルト・サクソフォーンと11の楽器のための室内小協奏曲」はその先駆けともいえる存在です。上野さんの軽快なソロが、機知に富んだ多彩な楽想を表現してくれました。まだまだこの楽器のレパートリーはこれから広がっていくのでしょうし、そのためには上野さんのような若くて意欲的な奏者の存在が欠かせません。
ヴァイオリンの辻彩奈さんはまだ20歳という若さ。とてもそんな年齢とは思えないようなスケールの大きな表現が印象に残りました。オーケストラとの共演でも不足を感じさせない芯の強い音も魅力。ショーソンの「詩情」に込められた豊かな情熱と幻想味が存分に伝わってきます。この曲はクライマックスの後に訪れる最後の余韻がいいんですよね。
チェリストの岡本侑也さんは、チャイコフスキーの「ロココの主題による変奏曲」を演奏してくれました。チェリストにとってはオーケストラと共演する際の貴重なレパートリー。のびやかな音色で、洗練された端正なチャイコフスキーを披露してくれました。爽快でしたよね。
毎年、この受賞者ガラコンサートを聴くと、日本の若手演奏家のレベルの高さを感じずにはいられません。3人ともまちがいなく、今後ますます大きな舞台で活躍してくれることでしょう。
天才による前代未聞の音楽会
今週はストラヴィンスキーの「兵士の物語」をお楽しみいただきました。石丸幹二さんがこれまでになんども朗読で上演に参加している作品です。
ストラヴィンスキーといえば20世紀音楽に革命をもたらした真の天才作曲家。バレエ音楽の「春の祭典」「火の鳥」「ペトルーシュカ」といった革新的作品でヨーロッパの楽壇にセンセーションを巻き起こし、時代の寵児となりました。これらはいずれも大編成のオーケストラを用いた作品です。
ところが第一次世界大戦が本格化すると、これまでのような大規模な作品を上演することは困難になります。しかも、ロシア十月革命の影響で祖国からの収入も途絶え、ストラヴィンスキーは窮地に立たされました。
そこで、少人数で演奏できて、各地を巡業できるようなタイプの作品を書けないかと考えて作られたのが「兵士の物語」。7人の奏者に朗読やパントマイムが加わるなど、さまざまな上演形態が可能です。器楽のみによる組曲版も盛んに演奏されています。
「兵士の物語」は音楽的にも斬新ですが、ストーリーもよくできています。休暇中の兵士が故郷への帰り道でヴァイオリンを弾いていると、老人に化けた悪魔が「富を得る本」とヴァイオリンの交換を持ちかけます。兵士が老人の家で三日間を過ごすと、その間に三年の月日が流れていました。兵士が故郷に帰ると、婚約者はすでに別の男と結婚し、子供をもうけています。兵士は本を使って金持ちになりますが、心は満たされません。旅に出た兵士は病に伏せる王女に出会います。兵士は悪魔と賭けで勝負してヴァイオリンを取り戻すと、ヴァイオリンを王女に聴かせて病を治します。ふたりは結婚するのですが、兵士は故郷が忘れられません。「国の外に出てはならない」と悪魔から警告されたにもかかわらず、兵士は国境を越えてしまい、魂を悪魔に奪われてしまいます。
凡庸な男の成功と破滅の物語。なんとも示唆的です。