「題名のない音楽会」はこの4月で60周年を迎えます。今回と次回にわたり、第一線で活躍する音楽家たちのみなさんをお招きして、番組の思い出ともう一度見たい名演について語ってもらいました。
高嶋ちさ子さんは2001年の「期待の若き音楽家たち」に初出演して以来、48回にわたって出演。これまでに高嶋さんならではの楽しい企画がたくさんありました。高嶋さんがもう一度見たい名演として挙げたのが、2018年放送の2CELLOS「スムーズ・クリミナル」。2CELLOSはYouTubeをきっかけに一世を風靡したデュオです。チェロのデュオでこんなにカッコいい音楽ができるのかという新鮮な驚きがありました。
反田恭平さんは子どもの頃から番組を見て、視聴者参加企画に出演し、大人になってピアニストとして番組に帰ってきました。こんなことがあるんですね。反田さんが思い出に残る回として挙げてくれたのは、青島広志さんがハイドンに扮して大活躍をする回。交響曲第94番「驚愕」第2楽章にある聴衆をびっくりさせる仕掛けが解説されていました。ジョーク好きのハイドンにふさわしい楽しい趣向でした。
作曲家の服部隆之さんのお話で印象的だったのは、番組はオーケストラの指揮を学ぶ貴重な機会だったということ。だれよりも作品を熟知している作曲家が自作を指揮をするのはごく自然なことですが、一方で作曲家も経験を積まなければ十分な指揮ができないことに気づかされます。服部さんが挙げた名演は、2007年放送のミシェル・ルグランと羽田健太郎の共演による「シェルブールの雨傘」。演奏中の羽田さんの至福に満ちた表情と高揚感あふれる音楽がすばらしいかったですよね。
箏奏者のLEOさんのもう一度見たい名演は、現代邦楽の第一人者として箏の世界を切り拓いた沢井忠夫の箏と歌(!)による「ラブ・ミー・テンダー」。こんな映像があったとは。びっくりしました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)