今回は「楽器の街」として知られる静岡県浜松市からお届けしました。新幹線で浜松駅を訪れるとコンコースに河合楽器のShigeru Kawaiが置いてあるのをご覧になったことのある方もいらっしゃると思います。さすが、浜松と思いますが、お値段を聞いてびっくり。まさかの2100万円のストリート・ピアノ……。
そのShigeru Kawaiを愛好するピアニスト、務川慧悟さんはエリザベート王妃国際音楽コンクール第3位、ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール第2位など、数々の国際コンクールで受賞歴を誇る名手。浜松駅でバッハのフランス組曲第5番のアルマンドを弾いてくれましたが、たまたま通りがかった方はラッキーでしたよね。
もとより評価の高いShigeru Kawaiでしたが、その名が一段と知られるようになったのは、2021年のショパン国際ピアノ・コンクールでの躍進のおかげでしょう。コンクールの公式ピアノに選ばれたのは、スタインウェイ、ヤマハ、ファツィオリ、カワイの4社のみ。同コンクールの本選参加者87人中6人がShigeru Kawaiを選び、その6人中3人がファイナルに残ったのですから、この楽器に注目が集まるのももっともな話です。
そのひとりが第2位を受賞したアレクサンダー・ガジェヴさん。Shigeru Kawaiについて「音に温もりがあり、ショパンが当時使用していた楽器であるプレイエルを思わせる温かさがある」と称賛していました。務川さんも「木の音がする」と表現していましたので、やはり温かみのある音に特徴があるのでしょう。
河合楽器竜洋工場をご案内いただきましたが、職人魂と最新テクノロジーが一体となったような場所で、見ていてワクワクします。そして、ここで務川さんが弾いてくれたのがホロヴィッツ編曲の「カルメン幻想曲」! これは強烈でしたね。なんというテクニック。最高の楽器でくりひろげられる最高にエキサイティングな快演に、思わず思わずブラボーと叫びたくなりました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)