今年、日本とベトナムは外交関係樹立50周年を迎えました。今回は「題名のない音楽会」ベトナム公演といたしまして、ベトナムの首都ハノイのオペラハウスよりお届けしました。このハノイオペラハウスは100年以上の歴史を誇る劇場で、パリのオペラ座がモデルになっています。フランス統治時代に建造されたとあって、内装もヨーロッパの劇場にそっくり。小ぶりな劇場ですが、とても装飾的でゴージャスです。
最初に演奏されたのはホー・ホアイ・アン作曲の「古都フエの女王」。ベトナムの伝統楽器で編成されたスック ソン モイ伝統オーケストラから、新鮮な音色が聞こえてきました。テルミンのような音色の竹素材の伝統楽器はダン・バウ。もともとはアコースティックな楽器で非常に音量の小さな楽器だったそうですが、現在ではエレキギター同様のピックアップを用いて、音を電気的に増幅しているのだとか。音色になんとも言えない味わい深さがあります。
同じく竹製の伝統楽器、ダン・トゥルンの音色も印象的でした。木琴のような乾いた軽快な音がするのですが、音に丸みがあって温かみを感じます。チン・コン・ソン作曲の「美しい昔」では、LEOさんの箏にダン・トゥルンや、奏者の口を共鳴器として用いるク・ニ、竹笛のサオ・チュックが加わって、まったく聴いたことのない響きが生み出されていました。箏以外の楽器にはなじみがないにもかかわらず、なぜかノスタルジーが喚起されます。
おしまいは坂本龍一作曲の「Merry Christmas Mr. Lawrence」。ベトナムの楽器と日本の箏で演奏しても、やっぱりこの曲は名曲ですね。原曲には東洋的なメロディをシンセサイザーで演奏することで、異文化の出会いというテーマが込められていると思います。ベトナムの伝統楽器と日本の伝統楽器の共演にふさわしい楽曲だったのではないでしょうか。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)