今週はグラミー賞を受賞した名曲を、クラシックの名奏者たちによる演奏でお届けしました。グラミー賞といえば世界でもっとも注目を集める音楽賞のひとつ。1959年に始まり、すでに60年を超える歴史を持っていますから、この賞自体がひとつの音楽史を刻んでいます。時を経てもなお聴き継がれる音楽は、新たな「クラシック」の仲間入りを果たしたとも言えますから、クラシックの奏者たちがグラミー賞の名曲を演奏することは決して不思議なことではありません。
一曲目の「ウィ・アー・ザ・ワールド」はヴァイオリン、フルート、トロンボーン、ストリングスという独自の編成。しなやかで、どこかノスタルジーを刺激する音楽になっていたように思います。同じ曲からオリジナルとは一味違った新しい魅力が生まれてくるのがアレンジの妙ですよね。
ビー・ジーズの「ステイン・アライヴ」は、「サタデー・ナイト・フィーバー」で一世を風靡した名曲。ディスコの雰囲気とフルートの澄んだ音色は一見遠そうですが、多久潤一朗さんの手にかかると、完璧なダンスミュージックに。それにしても回し吹きにはびっくりしました。
エリック・クラプトンの「ティアーズ・イン・ヘヴン」では、藤原功次郎さんの情感豊かで温かみのあるトロンボーンが印象的でした。藤原さんのお話にもありましたが、トロンボーンは歴史的に教会で用いられてきたことから、オーケストラではしばしば神や教会の象徴のように扱われます。たとえばモーツァルトの「レクイエム」やベートーヴェンの「第九」、マーラーの交響曲第3番など。そう考えると、この曲もトロンボーンで演奏されるのにふさわしいように思います。
ビリー・アイリッシュの「バッド・ガイ」は、廣津留すみれさんのいう「気持ち悪い」ところが癖になりそうな曲です。ヴァイオリンのポルタメント(音から音へ滑らかに連続的に移る奏法)が効果的に使われていました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)