あけましておめでとうございます。今週は新年早々にご結婚を発表されたばかりの反田恭平さんと一緒に古都奈良を巡りました。反田さんが設立したオーケストラ、ジャパン・ナショナル・オーケストラの拠点は奈良。反田さんはこのオーケストラを地域社会に親しまれる楽団に育て、いずれはアカデミー(音楽院)へと発展させたいとたびたび話しています。
意外なところで音楽と結びつきのある奈良でしたが、なかでも歴史を感じさせたのが春日大社の神楽鈴(かぐらすず)と鼉太鼓(だだいこ)。神楽鈴は約900年続く春日若宮おん祭で用いられ、鼉太鼓は約800年にわたって使われ続けたといいます。クラシック音楽では古い時代の作曲家であるバッハですら300年前の人ですから、800年、900年といった時間のスケールがいかに大きいか、感嘆せずにはいられません。
鹿寄せに使われていたホルンにもびっくり。現代のホルンとは異なり、バルブのないナチュラルホルンが用いられていました。今でもピリオド・オーケストラ(古い時代の作品を当時の楽器や奏法を用いて演奏する楽団)の演奏会で、ときどきナチュラルホルンを目にすることはありますが、まさか奈良の鹿寄せでナチュラルホルンの音色を聞けるとは。ヨーロッパの昔の楽器が奈良の風物詩として定着しているのがおもしろいですよね。
奈良ホテルのアップライトピアノは、相対性理論で有名なアインシュタイン博士がかつて来日した際に弾いたピアノなのだとか。アインシュタインといえば、いつも旅先にヴァイオリンを携行するほどのヴァイオリン愛好家として知られていますが、実はピアノも好んで弾いていました。
最後に演奏されたモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は、鈴木郁子さん製作の吉野杉製弦楽器を使ったカルテットによる演奏で。明るく爽快な音色が印象的でした。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)