今週は「3曲でクラシックがわかる音楽会」シリーズの第3弾。第1弾のモーツァルト編、第2弾のショパン編に続いて、シューベルト編をお届けしました。ゲストの伊集院光さんもおっしゃるように、シューベルトと言われてまっさきに思い出されるのが「魔王」や「野ばら」といった歌曲。シューベルトはわずか31歳で早世してしまいましたが、600曲を超える歌曲を書いています。今回はカウンターテナーの藤木大地さんに、シューベルトが「歌曲王」と称えられる理由を解説していただきました。
まず最初に挙げられたのは、ゲーテの詩による「野ばら」。同じメロディに1番から3番まで、異なる詩があてはめられていますが、それぞれの詩が描く情景はまったく異なります。にもかかわらず、詩と曲がぴたりと噛み合っている点に、シューベルトの「歌曲王」ぶりが現れていると言います。シンプルな曲なのですが、詩を3番までたどってみると、意外なほどドラマティックな曲だということに気づきます。
2曲目は「音楽に寄せて」。こちらも名曲ですよね。詩を書いたのはフランツ・フォン・ショーバー。詩人という以上にシューベルトの親友として言及されることの多い人物です。「野ばら」のようにゲーテの詩を使った場合でも、「音楽に寄せて」のように友人の詩を使った場合でも、シューベルトは詩と曲を密接に絡み合わせて、傑作を生み出しました。
3曲目はピアノ五重奏曲「ます」の第4楽章。こちらは器楽曲におけるシューベルトの代表作と言ってもよいでしょう。シューベルトが歌曲「ます」のために書いたメロディが、ここでは変奏曲の主題として用いられています。同じメロディが次々と姿を変えてゆくのが変奏曲のおもしろさ。藤木さんは、このような器楽曲からも歌を感じると言います。そして、さまざまな情景を思い浮かべながら聴くと、この曲も実はとてもドラマティックであることが、よくわかります。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)