左ききの割合はおよそ10人にひとりだとか。ハサミや急須のように、右ききを前提に設計されているものは少なくありません。であれば、音楽の世界はどうなっているのだろう……ということで、今週は左ききの音楽家のみなさんに集まっていただきました。
ギタリストの場合、左きき用のギターを使うという方法もありますが、松崎しげるさんは、右きき用のギターをそのまま左右逆に持ち替えて演奏する派。これだと弦の並びが上下逆になってしまいますが、独自の「かき上げ」奏法を駆使しながら、見事に弾いてくれました。これはすごい技ですね。
荒井里桜さんは左ききのヴァイオリニスト。ヴァイオリンの場合は普通、左ききでも右ききでも同じように弾きますので、見た目では区別がつきませんが、やはり左ききの方にとって右手による弓のコントロールは大変なようです。逆に左手の技術を要求する超絶技巧系の曲では有利な面もあるというお話にはなるほどと思いました。
ギターと違って、ヴァイオリンを左右逆の手で弾く人はほとんどいないと思いますが、往年のフィンランドの名指揮者でヴァイオリニストでもあったパーヴォ・ベルグルンドは、左手に弓を持って演奏していたそうです。オーケストラに在籍していた頃は、隣の奏者とぶつかりそうになって大変だったとか。ベルグルンドは指揮棒も左手に持っていました。
同じように左手で棒を振る指揮者が出口大地さん。出口さんのように左手に棒を持つ指揮者はかなり珍しいと思います。世界的指揮者では前述のベルグルンド、あとはイギリスのドナルド・ラニクルズが代表的な存在でしょうか。客席から見ても、指揮者が左手で棒を振っている姿はかなり新鮮に感じます。
SINSKEさんは左ききのマリンバ奏者。演奏時のフォームや楽譜の指番号など、意外なところで右ききが前提になっているんですね。新しい作品では左手に超絶技巧が求められる傾向があって有利になるというお話は、ヴァイオリンの超絶技巧と通じるところがありました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)