今週は3月28日に逝去した坂本龍一さんの音楽を、過去の演奏とトークを中心にお届けいたしました。坂本龍一さんが番組に初めて登場したのは1984年。当時32歳の坂本さんが司会の黛敏郎さんと話している映像がありましたが、世代も分野も異なるふたりの日本を代表する音楽家が対話をしているという意味で、これは本当に貴重な映像だと思います。
坂本さん本人のピアノによる「Merry Christmas, Mr. Lawrence」は1993年の演奏。今聴いても古びていない……というか、むしろ新鮮でみずみずしい音楽だと感じました。曲に漂うノスタルジーが、一段と際立って感じられます。
「El Mar Mediterrani」では、坂本さんが新日本フィルをエネルギッシュに指揮していました。この曲はバルセロナ五輪開会式のために書かれた作品です。豊かな音楽文化を誇る芸術都市バルセロナだけあって、この開会式にはホセ・カレーラスやプラシド・ドミンゴ、モンセラート・カバリエ等々、レジェンド級の大歌手たちがたくさん登場していたのですが、そこに坂本さんも招かれて自作を指揮していたことにあらためて驚きます。
「弦楽四重奏曲」第3楽章は、東京藝術大学在学中の19歳の作品。以前「放送2800回記念② 巨匠・坂本龍一からの伝達」の回で同曲の第1楽章をお届けしましたが、この第3楽章は初公開の映像です。ウェーベルンら新ウィーン楽派からの影響がストレートに感じられるアカデミックな書法で書かれています。坂本さんにもこんな時代があったんですね。
最後の「The Last Emperor」は1993年、2019年、2023年の3種類の演奏による特別編集版でした。時の流れに思いを馳せずにはいられません。1993年と2019年の演奏では坂本さんがピアノを弾いていましたが、2023年でピアノを弾いたのは角野隼斗さん。名曲とは作曲者の手を離れ、次の世代へと受け継がれてゆく作品のこと。これからも多くの若い音楽家たちが坂本さんの作品を演奏し、作品に新たな生命を吹き込んでゆくことでしょう。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)