今週は第31回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。出光音楽賞は1990年に「題名のない音楽会」の放送25周年を記念して制定された、すぐれた若手音楽家たちに贈られる賞です。今回の受賞者はピアノの小林愛実さん、チェロの上野通明さん、ヴァイオリンの岡本誠司さんの3名。川瀬賢太郎指揮東京フィルと共演して、シューマン、チャイコフスキー、バルトークの名曲を演奏してくれました。
小林愛実さんが演奏したのはシューマンのピアノ協奏曲。小林さんがとりわけ大切にしているという得意のレパートリーです。陰影に富んだ表現から、豊かな詩情があふれてきます。幼いころからYouTube等で脚光を浴びていた小林愛実さんが、メジャーレーベルからデビューを果たしのはわずか14歳のこと。当時、サントリーホールで記者発表会が開かれましたが、そのときのあどけない姿を思い出すと、感慨を覚えずにはいられません。
上野通明さんはパラグアイで生まれ、幼少期をスペインのバルセロナで過ごしたチェリスト。今回はチャイコフスキーの「ペッツォ・カプリチオーソ(奇想的小品)」を演奏してくれました。チャイコフスキーがチェロとオーケストラのために書いた作品というと「ロココ風の主題による変奏曲」が有名ですが、晩年に書かれたこの「ペッツォ・カプリチオーソ」にも味わい深い魅力があります。メランコリックで寂寞とした部分と、活発で技巧的な部分のコントラストが実に鮮やか。
岡本誠司さんが選んだのは、バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番。20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲として名高い作品ですが、実際にコンサートで耳にする機会は決して多くはありません。このような晴れの舞台で取り上げてくれるのは嬉しいですね。しっかりと芯のある美音から、バルトークならではの峻烈な輝きと土着的なエネルギーが伝わってきました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)