今週は「チャイム」の魅力にさまざまな角度から迫ってみました。「チャイム」と言われて即座に楽器を思い浮かべる方は少数派だと思います。しかし、オーケストラでこの楽器を耳にする機会は決して少なくありません。別名はチューブラー・ベル。tubularとは「管状の」。つまり「管状の鐘」という意味です。日本ではなんといっても「NHKのど自慢」の楽器として親しまれていますが、オーケストラでは教会の鐘の音を表現する場面でよく登場します。
「チャイム」が登場する有名曲といわれて、まず思い出すのはベルリオーズの「幻想交響曲」。教会の鐘の音として登場します。でも、実際にはこの曲が作曲された1830年時点では、まだ「チャイム」は発明されていません。ベルリオーズが指定したのは「鐘」で、もし鐘を調達できない場合はピアノで代用することを想定していました。実際にインマゼール指揮アニマ・エテルナが鐘をピアノで代用した演奏を聴いたことがありますが、これは少数派。現代では「チャイム」を使うのが一般的です。
ほかにもチャイコフスキーの祝典序曲「1812年」、ムソルグスキー(リムスキー・コルサコフ編曲)の交響詩「はげ山の一夜」、ムソルグスキー(ラヴェル編曲)の組曲「展覧会の絵」、レスピーギの交響詩「ローマの祭り」など、チャイムは華やかで色彩的なオーケストレーションが施された楽曲で活躍することが多いと思います。
今回はそんなチャイムにソロ楽器としての活躍の場を与えるべく、「展覧会の絵」の「バーバ・ヤーガの小屋」をチャイムとエレキギターで演奏するなど、新しいアイディアが試されました。「バーバ・ヤーガ」とはロシアの民話に登場する子供を喰らう怪異で、日本風に言えば山姥のこと。臼に乗り、片手に持った杵で臼を急き立てながら追いかけるという怖い山姥なのですが、エレキギターとチャイムの組合せはまさにバーバ・ヤーガにふさわしいド迫力。こんな曲が聞こえてきたら逃げ出すしかありません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)