今週は番組放送内容を変更して、9月に亡くなったすぎやまこういちさんの追悼企画をお届けしました。いずれも作曲者自身の指揮による自作自演で、貴重な映像ばかり。堂々として明快な指揮ぶりが印象的でした。
作曲家すぎやまこういちの代表作を挙げるとすれば、やはり「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽ということになるでしょう。「序曲」は「ドラクエ」シリーズ全体のテーマ曲というべき名曲。映画のオープニングテーマやオペラの序曲と同じように、音楽で物語の世界観を伝える大切な役目を担っています。「ドラクエ」の舞台は騎士、戦士、僧侶、魔法使いがいる古いヨーロッパ風のファンタジー世界。この世界にふさわしいクラシカルなテイストを持ったオーケストラ音楽が鳴り響きます。初代ファミコンの音源再生能力は現代からすると信じられないほど貧弱なものでしたが、それでもプレーヤーたちはイマジネーションを膨らませて、すぎやまさんの音楽にオーケストラのサウンドを聴き取っていたはずです。
もっとも「ドラクエ」発売当時は、すぎやまこういちの名を意外に感じた人が多かったと思います。というのも、当時はファミコンゲームといえばまだまだマイナーな世界。すでに歌謡曲で数々のヒット曲を飛ばした有名作曲家が曲を書いてくれるなんて、本当かな……と感じたものです。
番組最後に演奏されたのは「ドラゴンクエストIII」より「そして伝説へ」。これは名曲ですよねえ。シリーズ中でもドラクエIIIを最高傑作に挙げる人は少なくないのでは。ゲームをクリアして、音楽を聴きながらこれまでの冒険の軌跡を思い出し、その世界から別れがたい気分に浸る。これこそロールプレイングゲームの醍醐味でしょう。すべては架空の世界の物語なのに、音楽が強烈なノスタルジーを喚起します。もしすぎやまこういちの音楽がなかったら、「ドラゴンクエスト」はまったく別のゲームになっていたにちがいありません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)