• mixiチェック

シューベルトの歌曲を現代日本語訳で聴く音楽会

投稿日:2021年06月12日 10:30

今回は作詞家の松本隆さんによる現代日本語訳で、シューベルトの歌曲をお楽しみいただきました。
 シューベルトはウィーン生まれの作曲家ですので、歌曲の歌詞はドイツ語で書かれています。クラシック音楽の世界では原語歌唱が基本。日本人歌手であっても、ドイツ語の歌曲はドイツ語で歌い、イタリア語の歌曲はイタリア語で歌うのが一般的です。したがって、ほとんどの日本人の聴衆にとって、歌曲とは耳で聴いて意味を理解できるものではなく、別途歌詞対訳などを読んで意味を知っておく必要のあるものなのです。
 ただ、歌詞対訳に頼るとなると、どうしても歌詞の理解が間接的になってしまうことは避けられません。そこで松本さんが挑んだのが、現代日本語訳によるシューベルトの訳詞。これまでに「冬の旅」「美しい水車小屋の娘」「白鳥の歌」のシューベルト三大歌曲集が訳されています。お聴きいただいたように、どれも自然でなめらかな日本語で歌われており、曲のイメージがぐっと湧きやすくなっています。昔からの日本語訳詞がなかったわけではありませんが、年月が経てば言葉も変わるもの。松本さんの訳詞は、私たちにまっすぐに伝わる現代日本語で書かれているのが特徴です。
 松本さんの訳詞による「海辺」「ドッペルゲンガー」「鳩」の3曲を聴くと、日本語が美しいだけではなく、言葉が聴き取りやすく書かれていることに気づきます。曲の情景が無理なく頭のなかに浮かんでくるのは、この聴き取りやすさゆえでしょう。加えて、ドイツ語と日本語が持つ響きの違いも感じました。ドイツ語のアクセントや子音が持つ強い調子に比べると、子音の後に常に母音が続く日本語はとても柔らかいように思います。そういった響きの違いも、私たちにとって親しみやすく感じられる理由のひとつなのかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック
コメントはこちらからどうぞ

ニックネーム
コメント

※必ず注意事項をお読みの上、送信して下さい。

フォトギャラリー

フォトギャラリーを詳しく見る≫