知っているようで知らないのがアンコールのお約束。今週は高木綾子さん、宮田大さん、木嶋真優さん、反田恭平さんからアンコールの秘密をうかがいつつ、得意のアンコール曲を披露していただきました。
宮田さんがおっしゃっていたようにアンコールでは主に「聴きなじみのある曲」が演奏されます。あるいは有名な曲ではなくても、聴きやすい曲が選ばれることがほとんどでしょう。一般に本編のプログラムは、芸術性の観点から挑戦的な曲が選ばれたり、あるテーマに基づいた統一感のある選曲が好まれる傾向にあります。しかし、アンコールは自由です。たとえ本編にお堅い曲が並んでいたとしても、アンコールは気軽に楽しめる曲が優先。それまで緊張感のある集中した雰囲気だった客席が、アンコールになった途端にリラックスした雰囲気に変わることも珍しくありません。
アンコールで弾く曲数は人によって、あるいは演奏会の性格によってずいぶんちがってきます。木嶋さんは「3曲くらい」。あまりアンコールを弾かないアーティストもいます。本編のおしまいの曲がしみじみした雰囲気で終わる大曲だと、たっぷり余韻を味わってもうらためにあえてアンコールは弾かない、ということもあります。
一方で、とにかくたくさん弾いてくれる人もいます。ピアニストだとアンドラーシュ・シフやエフゲニー・キーシンなどは、次から次へとたくさん弾いてくれるので、ファンはアンコールを通称で「第3部」などと呼んだりします。つまり前半が第1部、休憩をはさんだ後半が第2部、そしてその後に隠された第3部が待っている……というわけです。
ちなみにカーテンコールで客席が拍手を続けるのは、なにもアンコールを求めているからとはかぎりません。もうアンコールは必要ない、お腹いっぱいです、でもあなたをもっと拍手で讃えたい。そんな意味の拍手もあります。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)