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ジャンルを超えた音楽家たち

投稿日:2016年09月18日 09:30

アルバム「SPARK」がこの4月に全米ビルボード・ジャズ・チャート第1位に輝いた上原ひろみさん。日本人がアメリカでジャズのチャートのトップに立つという快挙を成し遂げました。そんな上原ひろみさんが、新日本フィルのコンサートマスターである西江辰郎さんとご縁があったとは意外でした。おふたりは昨年のクリスマス・コンサート「上原ひろみwith新日本フィル」で、上原さんのオリジナル曲をオーケストラアレンジで共演した間柄なのだとか。
 上原さんがパッヘルベルの「カノン」を例に、クラシックとジャズの比較をしてくれたのが、とてもおもしろかったですよね。クラシックは楽譜に書かれている通りに弾く。でもジャズは即興(アドリブ)によってメロディを自由に変化させる。両ジャンルの違いが端的に示されていました。
 でも、実はクラシックもかつては即興演奏がごく一般的に行われていました。龍さんのお話にも少しありましたが、モーツァルトが生きていた時代には、お客さんはモーツァルトの自作と同様に、モーツァルトの即興演奏を楽しみにしていたのです。その場で与えられたメロディをもとに、音楽家が自在に即興するという、現在のジャズのようなことがごく普通に行われていました。
 それが時代を下るとともに、即興的な要素は失われ、作曲家があらかじめ考え抜いた音をその通りに演奏することが尊重されるようになっていきました。たとえば協奏曲にはカデンツァという独奏者の自由に任されている部分があります。これはかつては独奏者が即興を披露する(まさに上原さんが弾いてくれたように)聴かせどころだったのですが、やがて作曲者が事前にカデンツァも用意するようになりました。
 なぜそうなったのか、一言では説明できそうにありませんが、音楽の姿は時代とともに変わっていくもの。ジャズもまたこれからどんどん変化していくはずです。そして、音楽のジャンルというものは、常に流動的なものなのでしょう。

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オーケストラで高揚する音楽会

投稿日:2016年09月11日 09:30

DJとオーケストラ。ぜんぜん別世界のもののようでいて、実は親和性は高いのかもしれません。今週の「オーケストラで高揚する音楽会」では、ジェフ・ミルズがDJとオーケストラのコラボレーションを披露してくれました。オーケストラの重厚なサウンドをまとったジェフ・ミルズの楽曲が、新鮮な躍動感を生み出していました。
 オーケストラの演奏中にDJがなにをしているのか、一見、わかりづらいかもしれませんが、龍さんの解説にもあったように、これもライブ・パフォーマンスであり「演奏」だったんですね。一種の即興演奏のようなものと理解すればよいのでしょうか。
 ビートが生み出す陶酔感は、クラシックの名曲にも共通する音楽の本質的な魅力だと思います。ハチャトゥリアンの「剣の舞」はまさにその好例でしょう。この曲はバレエ「ガイーヌ」の一場面のために書かれた音楽ですが、強烈なリズムは、いかにも民族舞曲風に聞こえます。民族衣装をまとった剣士が情熱的に踊る様子が目に浮かんでくるかのよう。
 「剣の舞」には、バレエ初演の前日に大急ぎで書きあげられたという逸話が残っています。急遽舞曲が必要になったのですぐに一曲書いてくれと頼まれたハチャトゥリアンは、机をいろいろなリズムで叩きながら、なにか剣舞にふさわしい新しいリズムはないかと考えます。これというリズムが思いつかず夜通し悩み続けたところ、ようやく明け方近くになって「剣の舞」のリズムを考え出して、「これだ!」と一気に曲を書きあげたといいます。考えに考え抜いて作り出したリズムが、あたかも古くからの民族舞曲のように聞こえるというのがおもしろいところ。
 ひとたび「剣の舞」を聴くと曲が耳にこびりついて離れないのですが、ジェフ・ミルズの The Bells も同じように頭に残りませんか。中毒性があるといいますか、クセになるといいますか……。この両者、やはりどこかでつながっているのかも。

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ヴァイオリン・ソナタの音楽会

投稿日:2016年08月28日 09:30

今週はベートーヴェンとシューマンによる2曲のヴァイオリン・ソナタを、それぞれ三浦文彰さん、五嶋龍さんのふたりのヴァイオリニストの演奏でお聴きいただきました。
 「ソナタ」という言葉は、クラシック音楽の世界では最頻出ワードのひとつ。でもその意味はなかなか難しい! 同じ「ソナタ」という言葉でも、時代によって意味が違っていたりするので、わかりづらいんですよね。
 ベートーヴェンやシューマンの時代では、「ソナタ」という言葉は、ヴァイオリン・ソナタとか、ピアノ・ソナタといったように、主にソナタ形式で書かれた多楽章の器楽曲に使われます。ソナタ形式については番組内でも説明がありましたが、典型的には提示部、展開部、再現部の3部構成からなる形式で、ときには冒頭に序奏が添えられたり(シューマンのソナタがそうでした)、末尾に終結部(コーダ)が付いたりします。このソナタ形式は古典派やロマン派の時代には大いに重用された形式で、実は交響曲や協奏曲でもこのソナタ形式が採用されています。
 なぜ、そんな形式が必要なのか。作曲家は芸術家なんだから、既存の形式なんかに束縛されずに、思ったままに曲を書けばいいじゃないか。そんなふうに感じる方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし、ヴァイオリン・ソナタや交響曲など、ある程度長さを持った楽曲は、いわば長編小説のようなもの。起承転結があります。定まった形式があると、聴く側はたとえその形式を意識せずに聴いているとしても(ふつうはそうだと思いますが)、音楽が持つストーリー性を耳で追いやすくなります。起承転結を伝えるための、ひとつの有力な方法がソナタ形式といえるのではないでしょうか。

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中村紘子の音楽会

投稿日:2016年08月21日 09:30

今年7月26日、日本を代表するピアニスト、中村紘子さんがお亡くなりになりました。その業績はあまりに大きく、とても一言では振り返ることができませんが、ピアニストとして、文筆家として、教育者として、すべてにおいて並外れた存在だったことはまちがいありません。
 番組内でもご紹介しましたが、1960年にNHK交響楽団が世界一周演奏旅行を敢行したときに、ソリストとして参加したのが当時16歳の中村紘子さんでした。現代でも次々と若い才能があらわれていますが、16歳でこれほどの大役を務めるピアニストなど、想像もつきません。1965年にはショパン国際ピアノ・コンクールで入賞を果たします。そのときの優勝者はあのマルタ・アルゲリッチ。コンクールの水準の高さが察せられます。
 アメリカの著名な音楽評論家ハロルド・C・ショーンバーグに『ピアノ音楽の巨匠たち』という名著があります。古今の大ピアニストたちの系譜をたどる大著ですが、この本に唯一登場する日本人が中村紘子さん。戦後、アジアから多くのピアニストが台頭するが、その多くは技術はあっても音楽との真の一体感に欠けると指摘した後、「西欧の音楽家に感銘を与えた数少ないアジア人ピアニスト」として、中村紘子さんの名前が挙げられています。「見事なテクニックとあふれる情熱がある」という賛辞は、本日お聴きいただいたベートーヴェンの「皇帝」にも当てはまるのではないでしょうか。
 個人的に忘れられないのは、もう何年も前に中村さんのご自宅にインタビュー取材に伺った際に聞いた「演奏会は一期一会」というお話。全国各地でたくさんのリサイタルをすると、うまくいくときもあれば、そうではないこともある。しかし、音楽家にとって演奏会は数あるうちのひとつであっても、お客様にとってはその一回がすべて。だから一回一回のためにしっかり準備をして、全力を尽くさなければならない。そう、おっしゃるのです。
 これほどの大家であっても、どんな公演にも覚悟を持って臨んでいるのだと知り、強い感銘を受けました。

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旅の思い出の音楽会

投稿日:2016年08月07日 09:30

音楽家と旅は切っても切れない関係にあります。モーツァルトはその生涯の約3分の1を旅先で過ごしたといいます。旅先で人と出会ったり、見聞を広めることが、新たな創作意欲の源泉となっていたことはまちがいありません。
 現代の音楽家にとっても旅は欠かすことのできないもの。人気演奏家ともなれば各地を転々としながら、そこで演奏会に出演することが日常となっています。本日の「旅の思い出の音楽会」では、そんな旅する音楽家たちが、それぞれの思い出の一曲を披露してくれました。
 とりわけ興味深かったのがピアニストの金子三勇士さんのお話です。日本人のお父さんとハンガリー人のお母さんの間に生まれ、6歳から単身でハンガリーに渡り、おばあさんの家に住んだという金子さんは、日本語とハンガリー語、そして英語を使い分けることができます。その金子さんはフランスで聴いたドビュッシーの「月の光」の演奏に、「フランス語の発音のような解釈」を感じたといいます。音楽は言葉の壁を超えて伝わる芸術ではありますが、それでもフランス語を話すから表現できるフランス音楽、ドイツ語を話すから表現できるドイツ音楽、日本語を話すから表現できる日本音楽といった領域が、たしかにあるのでしょう。
 三浦文彰さん本人の演奏で「真田丸」メインテーマを聴けたのも嬉しかったですね。作曲は服部隆之さん。これは名曲だと思います。大河ドラマにヴァイオリン協奏曲スタイルの作品は意外な感もありましたが、ヴァイオリンの鋭く切れ込むような音色は、どこか凛然とたたずむ武士を連想させるようにも感じます。ピアノ伴奏版で聴くと、原曲のオーケストラ版とはまた一味違ったクールな雰囲気があって、新鮮な感動がありました。

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スポーツの祭典の音楽会

投稿日:2016年07月31日 09:30

いよいよリオデジャネイロ・オリンピックが始まりますね。今週は「スポーツの祭典の音楽会」。オリンピックやワールドカップを彩る名曲が演奏されました。
 オリンピックでは毎回独自のファンファーレが作られていますが、まっさきに思い出されるのが、ジョン・ウィリアムズ作曲によるロサンゼルス・オリンピックのための「オリンピック・ファンファーレとテーマ」。大会が終わってもなお演奏され続け、そのままファンファーレの定番曲として定着した感があります。「スターウォーズ」や「スーパーマン」など、数々の映画音楽で名作を生んできたジョン・ウィリアムズですが、このファンファーレもまた彼の代表作として残る一曲ではないでしょうか。
 コープランド作曲の「市民のためのファンファーレ」も同じくアメリカが生んだファンファーレの名曲です。威厳と高揚感にあふれ、この曲自体、オリンピックのファンファーレとして演奏されてもおかしくないような雰囲気を持っていますよね。コープランドは後にこのファンファーレの主題を交響曲第3番の終楽章で再利用して、さらに大規模な音楽に仕立てています。本来ブラスバンド向けのファンファーレを、フル・オーケストラの交響曲にしたらどうなるのか。ご興味のある方はぜひ聴いてみてください。
 サッカーの世界では、なんといっても、ヴェルディ作曲のオペラ「アイーダ」に登場する「凱旋行進曲」が有名です。ヴェルディの母国イタリアのみならず、世界中のサポーターたちがスタジアムでこのメロディを歌っています。
 「アイーダ」で舞台となるのは古代エジプト。「凱旋行進曲」は第2幕のラダメス将軍率いるエジプト軍の勝利を称える場面で華々しく演奏されます。しかし、その後、ラダメス将軍は祖国の栄光よりも許されざる愛を選び、地下牢に閉じ込められて現世に別れを告げます。華やかだけど、結末は苦い。勝利とはひとときのものだからこそ、「凱旋行進曲」の壮麗さが際立つのかもしれません。

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冨田勲の音楽会

投稿日:2016年07月24日 09:30

今年5月5日、84歳で亡くなった作曲家の冨田勲さん。テレビや映画音楽の作曲家として、またシンセサイザー音楽の先駆者として、音楽界に大きな足跡を残しました。近年もバーチャルシンガーの初音ミクとオーケストラを共演させるなど、衰えることのない旺盛な創作意欲を発揮していました。
 テレビ音楽で懐かしかったのは「新日本紀行」の音楽。これは名曲ですよね。尺八の音色が日本の原風景を思い起こさせます。「今日の料理」のテーマ曲はあまりに有名ですが、冨田勲作曲であることをご存じなかった方もいらっしゃるのではないでしょうか。急遽、番組のテーマ曲を作らなければならなくなり、たまたまそこに居合わせたのがマリンバ奏者とパーカッション奏者だったので、それに合わせて曲を書いたという逸話が知られています。あの軽快なマリンバのサウンドは偶然の産物でもあったんですね。
 シンセサイザー音楽家としての冨田さんは日本よりも先にまずアメリカで高い評価を受けました。「月の光」「惑星」「火の鳥」など、クラシックの名曲をシンセサイザーで再創造し、だれも聴いたことがない音の世界を切り拓きました。最初期のシンセサイザーは楽器というよりは機材といったイメージが近いでしょうか。冨田さんがアメリカにシンセサイザーを発注したところ、電話の交換台のような装置が送られてきて、税関に楽器だと認めてもらえずに引き取るまでに苦労をしたといいます。
 番組では初音ミクとオーケストラの共演が実現しました。初音ミクの歌唱部分は、あらかじめ録音した歌を再生してそれにオーケストラが合わせたのではありません。指揮者の棒に初音ミクの側が合わせています(もちろん人間の操作を介在してではありますが)。指揮台の横に2次元バーコードのような物が配置されていたのは、CGを合成させるためのマーカーなのだとか。こんなふうに舞台とCGの合成ができるんですね。可能性の広がりを感じます。

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若き俊英たちの音楽会

投稿日:2016年07月10日 09:30

今、日本の音楽界からは若くて優秀なアーティストが次々と登場しています。今週の「若き俊英たちの音楽会」では、3組のアーティストがそれぞれの個性を発揮してくれました。
 ピアノの實川風(じつかわ・かおる)さんは昨年のロン=ティボー=クレスパン国際コンクールで第3位(1位なし)に入賞した新鋭です。ベートーヴェンの「ワルトシュタイン」、本当にすばらしい演奏でしたよね。細部まで彫琢された緻密な演奏でありながら、音楽全体に勢いが感じられる堂々たる本格派のベートーヴェンでした。
 実は収録より前に、東京・渋谷で實川風さんのリサイタルが開かれまして、そちらでも「ワルトシュタイン」が演奏されていました。プログラムにはほかにショパン、リスト、ドビュッシー、現代のピアニスト兼作曲家のヌーブルジェらの作品も並べられ、実に多彩。音楽的な視野の広さも感じさせます。将来が、というよりは、すでに次のリサイタルが楽しみなピアニストといってよいかもしれません。
 篠笛の佐藤和哉さんは、佐賀県の「唐津くんち」のお囃子が最初の笛との出会いだったそうです。NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」主題歌のモチーフとなった佐藤さんの「さくら色のワルツ」には、日本人の琴線に触れるようなノスタルジックな手触りと、今風の洗練されたテイストがともに感じられたのではないでしょうか。
 驚きの打楽器アンサンブルを披露してくれたのは Ki-Do-Ai-Raku のみなさん。4人全員がスネアドラム(小太鼓)を叩くと聞いて、「うーん、なんだか変化に乏しい地味なアンサンブルになりそうだな」と思っていたら、まさかあんなにはじけたパフォーマンスを見せてくれるとは! スネアドラムにいろんな種類の奏法があるということにもびっくり。スネアドラムをササッと裏返す場面がありましたが、あんなふうに直接スネア(響き線)をスティックで叩くこともできるんですね。想像以上に表現力に富んだ楽器であることを再認識しました。

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ボサノヴァを愛する音楽家たち

投稿日:2016年07月03日 09:30

今週は「ボサノヴァを愛する音楽家たち」。ボサノヴァって、聴いていて本当にさわやかな気分になりますね。ボサノヴァにはぜんぜんなじみがないという方も、「イパネマの娘」や「マシュ・ケ・ナダ」といった名曲は必ずどこかで耳にしているのではないでしょうか。小野リサさんのささやくような歌声に、龍さんのヴァイオリンが加わった「イパネマの娘」がとても新鮮でした。
 新鮮といえば、津軽三味線奏者の上妻宏光さんと小野リサさんの共演にも驚きました。もともとは武器だったという素朴な民族楽器「ビリンバウ」と三味線に共通点が多いということからコラボレーションが実現したそうですが、不思議なほど違和感がありません。
 ボサノヴァの発声法について、小野リサさんは「恋人に語りかけるように」と説明してくれました。ボサノヴァに特徴的な軽くやさしい発声は、たとえばオペラのような強靭で輝かしい発声とは正反対といってよいでしょう。でも、オペラ・アリアの名曲も多くは恋人に向けて愛を歌っているんですよね。同じことを目的にしているのに、表現の方法がまるで違うところがなんともおもしろいと感じました。
 ポルトガル語のbossa nova をそのまま直訳すれば「新しいこぶ」。この言葉が生まれた当時のニュアンスを汲むと、「新しい天性、しゃれた癖」といった意味を表すそうです。ボサノヴァとは「ブラジルの踊りサンバに都会的なジャズの感覚をとりいれ、ジャズ・サンバともいわれる」(「新編音楽中辞典」より)。この音楽が誕生した20世紀前半のブラジルでは、おしゃれで都会的な音楽とみなされていたようです。ボサノヴァのおしゃれで都会的といったイメージは、21世紀の日本でもほとんど同じように共有されていますよね。これってスゴいことだと思いませんか。

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リズム歌謡の音楽会

投稿日:2016年06月26日 09:30

「東京ブギウギ」が発表されたのは昭和22年のこと。自分が生まれるよりもはるかに昔の流行歌です。でも、聴くと知っているんですよね。本日の「リズム歌謡の音楽会」では、エリック・ミヤシロさんの編曲したバージョンでお聴きいただきましたが、古いのに古びていないといいましょうか、とてもカッコいい曲だと感じました。いま昭和歌謡に注目する動きがあるというのもわかるような気がします。
 それにしても「リズム歌謡」の変遷をたどった輪島裕介さんの解説には目からウロコが落ちっぱなしでした。日本でブームを作ったマンボ、カリプソ、ツイスト、ドドンパに、そんな背景があったとは。昭和31年のマンボブームは、ペレス・プラード楽団の来日がきっかけだったといいますから、本場のマンボに触れたおかげだったわけですね。たまたまですが、同じ昭和31年に第1回のイタリア歌劇団来日があり、日本にオペラ文化を定着させる契機となったと言われます。やはり本物との出会いが、新たな文化を生み出すものなのでしょう。
 もうひとつおもしろかったのは、ドドンパが日本で生まれたリズムだという点。マンボはキューバ、カリプソはカリブ、ツイストはアメリカ由来のダンスですが、ドドンパはなんと日本製なんですね。「ドドン、パッ! ドドン、パッ!」というコンガのリズムが、盆踊りに通じているという解説がありましたが、言われてみるとすごく納得できます。マンボとかカリプソはどんなに練習してもサマになりそうにないですが、ドドンパだったらカッコよく踊れるかも! 一瞬、そんな気の迷いを起こしました。
 ところで「マンボNo.5」で知られるペレス・プラードは1916年12月11日に生まれています。つまり、今年生誕100年。もしかすると世界的にマンボ・イヤーになるのではと期待しているのですが、どうなんでしょうね。

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