超絶技巧って理屈抜きの感動がありますよね。田中彩子さんが歌ってくれたモーツァルトの「夜の女王のアリア」では、どこから出てくるのか思うような高音が飛び出します。軽快で、ユーモラスで、でも迫力がある。爽快でした。
このアリアが登場するモーツァルトのオペラ「魔笛」は、ほかのオペラとは少し違ったテイストで作曲されています。田中さんのお話でも少し触れられていたように、当時のウィーンでは宮廷劇場がオペラの上演拠点となっていました。しかしその一方で、民衆のための劇場でも歌芝居などが上演され、次第に人気を高めていました。
とりわけ才人ぶりを発揮していたのが、興行主兼台本作家兼俳優兼歌手のシカネーダー。シカネーダーは自分たちの一座のために、モーツァルトに「魔笛」を書いてもらったのです。おとぎ話や魔法が題材に選ばれているのも、民衆劇のスタイルを踏襲しているからなのでしょう。そして、歌手が超絶技巧を発揮する「夜の女王のアリア」は、お客さんを大いに沸かせる見せ場だったにちがいありません。
「魔笛」が民衆のためのオペラであったのと同様に、一噌幸弘さんが復刻した田楽笛も民衆のための楽器だったといいます。「空乱12拍子」では、アクロバティックな超絶技巧が連発されました。こちらもエキサイティングでしたよね。なんといっても複数の笛を同時に吹くというのが強烈。この曲は一噌さんのオリジナル作品ですが、きっとかつての田楽笛にも名手がいて、「夜の女王のアリア」と同じように聴く人を興奮させたのではないでしょうか。
今回、東京シティ・フィルを指揮した沼尻竜典さんは、指揮のみならずピアノや作曲でも活躍されています。五嶋龍さんたっての希望で、沼尻さんのピアノとの共演が実現しました。ヴィエニャフスキの「レジェンデ」、心に響く名演でした。