指揮者のわがままって、いったいなんだろう……と思ったら、こういうことだったんですね。ノーリハーサルでの本番、楽団員の暗譜演奏、バラバラの楽器配置、楽団員が歌って演奏。どれも実際のコンサートではまずありえないようなことばかり。でも指揮者の山田和樹さんのお話を聞くと、音楽的な狙いがあってのことと知って納得しました。
ノーリハーサルで演奏してくれたのはプロコフィエフの「古典交響曲」の第3楽章。自在にテンポを動かしながら、強弱の表現もはっきりと付けた演奏でした。リハーサルがなくても、指揮のテクニックだけでこれだけ音楽を作ることができるとは。リハーサル嫌いの歴史的大指揮者クナッパーツブッシュも、こんなふうに指揮をしていたのでしょうか。
楽団員の暗譜演奏にもびっくりしました。指揮者で暗譜をする方は決して珍しくはありませんが、楽団員が暗譜で演奏する姿を見たのは初めて。譜面台がないと、ずいぶんオーケストラの景色が違って見えます。なにかさっぱりした感じ、とでもいいましょうか。暗譜のおかげなのでしょう、すこぶる精彩に富んだ「フィガロの結婚」序曲を聴くことができました。19世紀の名指揮者ハンス・フォン・ビューローが楽団員に暗譜を求めたのは、こんなスリリングな演奏を実現したかったからなのかもしれません。
いちばん予測が付かなかったのは、楽器のバラバラ配置。近年、一般的なストコフスキ式の楽器配置を見直して、それ以前のヴァイオリンを両翼に分ける対向配置を復活させようというトレンドが一部にあるのですが、山田さんのアイディアはもっと過激で、楽器ごとにグループを作らないという自由配置でした。さすがに楽器間の音のバランスは保てなくなってしまいますが、普段とは違った響きが生まれてくるのがおもしろかったです。オーケストラは集団である以前に、ひとりひとりのプレーヤーたちの集まりなんだな、ということも改めて感じました。
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指揮者のわがまま音楽会
投稿日:2016年02月21日 09:30