自分が二十歳のころになにをしていたか……と思い返してみれば、その未熟さに赤面したくなるという方が大半なのではないでしょうか。法律上で「成人になった」ことと、社会のなかで一人前の大人として認められることの間には大きな隔たりがあります。
しかし、音楽家の世界では若くして頭角を現し、舞台で注目を浴びるような才能の持ち主が大勢います。今回、出演してくださったピアニストの小林愛実さん、ヴァイオリニストの周防亮介さんはともに二十歳にして、すでに華々しいキャリアを築きつつあります。まだ二十歳ですから現在も音楽大学や音楽院で研鑽を積んでいるのですが、それと並行してプロフェッショナルとしての演奏活動も続けています。
「二十歳にしてすでに一流」という点では、過去の大作曲家たちは現代の演奏家をさらに凌いでいるかもしれません。今回取りあげたショパンのピアノ協奏曲第1番、ヴィエニャフスキの「スケルツォ・タランテッラ」、モーツァルトのセレナード第7番「ハフナー」の3曲は、いずれも作曲者が二十歳頃に書いた作品。これらは決して若書きの習作などではありません。すでにその作曲家の特徴や個性がはっきりと作品に刻印されており、しかも作曲者の死後もずっと演奏され続けている名曲です。この若さで将来の「古典」を書きあげてしまうのですから、本当にすごいですよね。
そして若年期の名曲には、その時期だからこそ表現できる魅力があると思います。モーツァルトの「ハフナー」セレナードから伝わってくる溌溂とした生命力や屈託のない明るさは、限りない可能性を秘めた若者ならではのものではないでしょうか。ヴィエニャフスキの技巧的な「スケルツォ・タランテッラ」からは、当時すでに名ヴァイオリニストとして脚光を浴びていた作曲者の誇らしげな表情が伝わってくるようです。
ショパンのピアノ協奏曲第1番は、作曲者が故郷ポーランドを離れて異国へと旅立つ告別演奏会で初演された作品です。祖国への思いを込めた旅立ちの曲。これも二十歳ならではの名曲です。「若いから未熟」という考え方は、才能ある音楽家に対しては当てはまらないのでしょうね。