吹奏楽部も強豪校やマンモス校ともなれば部員が100人を超える大所帯も珍しくはないでしょう。しかし世は少子化。なかには年々生徒数が減り続け、部員の確保に苦労するといった学校もあるのではないでしょうか。
だったら少人数であることをむしろ強みに変えるような作戦があるのでは? 本日の「吹奏楽部を知る音楽会Ⅲ」では、サクソフォン奏者の上野耕平さんとこぱんだウインドオーケストラのみなさんが、そんな小編成吹奏楽の奥義を教えてくれました。
上野さん、本当にアイディアが豊かですよね。なるほど、こんな手があったのかと、思わず膝を打ってしまいます。
特にいいなと思ったのは、編成を絞った「華麗なる舞曲」。吹奏楽の難曲として知られる作品ですが、軽快で歯切れよい演奏は新鮮でした。単に少人数で演奏効果を出すということ以上に、演奏のクォリティ自体を高めることにつながっていたように思います。
吹奏楽に限らずオーケストラでもそうですが、一般に編成が大きくなればなるほど、迫力が増す代わりに、細かい音の動きをピタッと合わせることが難しくなり、音の輪郭はぼやけてきます。小編成だから可能な小気味よさ、機動力、メンバー間の親密な音の対話というものがあるはず。そもそも曲によっては、あまり大きな編成にしないほうが、作品が生きてくる場合も多いんじゃないかな、とも感じます。
最後の「ハッピー」はカッコよかったですよね。譜面台をなくすということは暗譜が必須になりますが、視覚的な効果は絶大です。客席のノリが確実に違ってくるのではないでしょうか。
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吹奏楽部を知る音楽会Ⅲ
五嶋龍の音楽会
今回は「五嶋龍の音楽会」。ヴァイオリニスト五嶋龍さんを改めて知っていただくために、「現代音楽」「同世代」「ゲーム音楽」「練習」「ユンディ・リ」「アップデート」というキーワードに即して、6曲がとりあげられました。これまでに番組を通じて龍さんが出会った音楽家たちや楽曲について、龍さんがどんなふうに考えているのか、とてもよく伝わってきたのではないかと思います。
久石譲さんの作曲と指揮、龍さんのヴァイオリンによる番組オープニング・テーマ Untitled Musicを、久しぶりにフルバージョンで聴くことができましたが、やっぱりいい曲ですよね。フレッシュで、勢いがあって、心が浮き立つような音楽です。龍さんのイメージにぴったりではないでしょうか。
龍さんと同世代の音楽家との共演を聴けるのも、この番組ならではの楽しみ。龍さんは「普段の生活では同世代の音楽家たちと接しあう機会はまったくない」のだとか。若くして国際的に活躍する音楽家にとっては、共演者はずっと年上ということがほとんど。日本の同世代を代表する気鋭の演奏家たちとの共演は、大きな刺激を与えてくれるにちがいありません。
ハーバード大学卒、空手三段、幼少時から脚光を浴びるヴァイオリニスト。そんな龍さんのプロフィールからすると、実はゲーム好きだというのが意外ですよね。ゲームを語るときの龍さんの熱さは本物です。「ハマるゲームは製作者が心を込めて作ったゲーム。そういったゲームはすばらしい作品であり、アートでもある」というのが龍さんの持論です。
本日の最後に登場したのはイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番。龍さんが司会となってこの番組で最初に演奏した楽曲で、選曲にも照明効果にも龍さんのアイディアが反映されています。古典の引用からはじまりながら、独自の音楽世界を作り出すこのイザイの作品ほど、龍さんの「音楽に対する視野・視点をアップデートする」という姿勢を体現した曲もないでしょう。ただ新奇さを追い求めるのではなく、見慣れた光景が違ったものに見えてくるような視点の転換を迫る。これはまさに過去の大作曲家が行ってきたことでもあり、その積み重ねがクラシック音楽の歴史になっているともいえます。その意味では、龍さんのおっしゃることは音楽家の本道そのものだな、と感じました。
ゲーム音楽史の音楽会
ゲームをお好きな方なら、きっと今日の演奏を聴いて勝手に指が動き出してしまったのではないでしょうか。
今年30周年を迎えた「スーパーマリオブラザーズ」。名作ですよねえ。シエナ・ウインド・オーケストラの演奏を聴きながらファミコンのプレイ画面を見ると、懐かしさで胸がいっぱいになります。ああ、ここで大ジャンプしたよなあ……と。
そして、忘れることのできないゲーム音楽といえば、もちろん「ファイナルファンタジー」に登場した名曲の数々。「マンボdeチョコボ」のトロンボーンのソロが熱かった!
作曲者の植松伸夫さんのお話にあったように、当時はハードウェアの制限で同時発音数が限られていたんですね。かつて「ピコピコ音」などといわれたサウンドが、今や壮大なオーケストラのサウンドまで再現できるようになったのですから、技術の進化も並大抵ではありません。
意外な気もしますが、五嶋龍さんはゲーム好きなんだそうです。今回の番組収録に先立ってお好きなゲームをいくつか挙げていただいたところ、海外ゲームの人気作に交じって挙げられていたのが「ゼルダの伝説」。そこで、「ゼルダの伝説」のメインテーマが演奏されることになりました。
よもや、あの名曲を五嶋龍さんのヴァイオリンで聴けるとは! 独奏ヴァイオリンとブラスバンドの共演という点でもユニークなサウンドが生まれていました。ヴァイオリンとオーケストラの協奏曲はたくさんありますが、ヴァイオリンとブラスバンドという組合せはほとんどありません。
パワフルで厚みのあるブラスバンドをバックに、孤軍奮闘するヴァイオリニストの姿は、「ゼルダの伝説」の主人公の姿にどこか重なります。まるでヴァイオリンの弓が、剣のように見えませんでしたか。
吹奏楽部の音楽会
吹奏楽で聴くレスピーギの「ローマの祭」。迫力がありましたよね。プロが演奏すると、こんなに精妙なサウンドが生まれてくるのかという驚きがありました。
本来、「ローマの祭」は大編成のオーケストラのために書かれた交響詩ですが、こうして吹奏楽で聴いてもまったく違和感がありません。クラシックの名曲を吹奏楽編曲で演奏する例は珍しくありませんが、これほどぴたりとハマった編曲はなかなかないのでは? 派手な演奏効果があって、しかも曲がいい。吹奏楽コンクールでの人気の高さにもうなずけます。
レスピーギには「ローマの松」「ローマの噴水」という交響詩もあります。こちらも吹奏楽版でも知られる人気曲ですよね。「ローマの祭」と合わせて「ローマ三部作」と呼ばれています。
レスピーギは1879年、イタリアのボローニャに生まれました。ローマの生まれじゃなかったんですね。幼少時からヴァイオリンとピアノを学び(どちらもかなり達者だったとか)、ロシアにわたって劇場でヴァイオリン奏者を務めるかたわら、管弦楽法の大家として知られるリムスキー=コルサコフに作曲を師事しました。レスピーギの華麗なオーケストレーションは師匠譲りなんでしょう。
1913年からはローマで作曲の教授を務めるようになり、この地で「ローマ三部作」を着想しました。
レスピーギは当時ほとんど無視されていたイタリアの古楽に深い関心を寄せていました。そして、古い音楽を素材に用いて自作を作曲することがしばしばありました。「リュートのための古風な舞曲とアリア」は、16~17世紀に書かれたリュート曲を20世紀のオーケストラ向けに編曲した作品ですし、組曲「鳥」もやはり古楽を素材に使っています。これらの作品には編曲者としてのレスピーギの手腕が発揮されています。
そんなレスピーギが今も生きていて、自分の作品が吹奏楽用に編曲されて日本で人気を呼んでいると知ったら? きっとずいぶん愉快に感じたのではないでしょうか。