今週はベートーヴェンとシューマンによる2曲のヴァイオリン・ソナタを、それぞれ三浦文彰さん、五嶋龍さんのふたりのヴァイオリニストの演奏でお聴きいただきました。
「ソナタ」という言葉は、クラシック音楽の世界では最頻出ワードのひとつ。でもその意味はなかなか難しい! 同じ「ソナタ」という言葉でも、時代によって意味が違っていたりするので、わかりづらいんですよね。
ベートーヴェンやシューマンの時代では、「ソナタ」という言葉は、ヴァイオリン・ソナタとか、ピアノ・ソナタといったように、主にソナタ形式で書かれた多楽章の器楽曲に使われます。ソナタ形式については番組内でも説明がありましたが、典型的には提示部、展開部、再現部の3部構成からなる形式で、ときには冒頭に序奏が添えられたり(シューマンのソナタがそうでした)、末尾に終結部(コーダ)が付いたりします。このソナタ形式は古典派やロマン派の時代には大いに重用された形式で、実は交響曲や協奏曲でもこのソナタ形式が採用されています。
なぜ、そんな形式が必要なのか。作曲家は芸術家なんだから、既存の形式なんかに束縛されずに、思ったままに曲を書けばいいじゃないか。そんなふうに感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ヴァイオリン・ソナタや交響曲など、ある程度長さを持った楽曲は、いわば長編小説のようなもの。起承転結があります。定まった形式があると、聴く側はたとえその形式を意識せずに聴いているとしても(ふつうはそうだと思いますが)、音楽が持つストーリー性を耳で追いやすくなります。起承転結を伝えるための、ひとつの有力な方法がソナタ形式といえるのではないでしょうか。
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ヴァイオリン・ソナタの音楽会
旅の思い出の音楽会
音楽家と旅は切っても切れない関係にあります。モーツァルトはその生涯の約3分の1を旅先で過ごしたといいます。旅先で人と出会ったり、見聞を広めることが、新たな創作意欲の源泉となっていたことはまちがいありません。
現代の音楽家にとっても旅は欠かすことのできないもの。人気演奏家ともなれば各地を転々としながら、そこで演奏会に出演することが日常となっています。本日の「旅の思い出の音楽会」では、そんな旅する音楽家たちが、それぞれの思い出の一曲を披露してくれました。
とりわけ興味深かったのがピアニストの金子三勇士さんのお話です。日本人のお父さんとハンガリー人のお母さんの間に生まれ、6歳から単身でハンガリーに渡り、おばあさんの家に住んだという金子さんは、日本語とハンガリー語、そして英語を使い分けることができます。その金子さんはフランスで聴いたドビュッシーの「月の光」の演奏に、「フランス語の発音のような解釈」を感じたといいます。音楽は言葉の壁を超えて伝わる芸術ではありますが、それでもフランス語を話すから表現できるフランス音楽、ドイツ語を話すから表現できるドイツ音楽、日本語を話すから表現できる日本音楽といった領域が、たしかにあるのでしょう。
三浦文彰さん本人の演奏で「真田丸」メインテーマを聴けたのも嬉しかったですね。作曲は服部隆之さん。これは名曲だと思います。大河ドラマにヴァイオリン協奏曲スタイルの作品は意外な感もありましたが、ヴァイオリンの鋭く切れ込むような音色は、どこか凛然とたたずむ武士を連想させるようにも感じます。ピアノ伴奏版で聴くと、原曲のオーケストラ版とはまた一味違ったクールな雰囲気があって、新鮮な感動がありました。
歴史を彩るヴァイオリニストたち
同じ作品が、演奏するアーティストによって違った表情を見せる。クラシック音楽の聴き方のひとつとして、こういった同曲異演の楽しみがあります。
では、現在第一線で活躍するプロのヴァイオリニストたちは、往年の大ヴァイオリニストの演奏について、どう感じているのでしょうか。今回の「題名のない音楽会」では、徳永二男さん、三浦文彰さん、そして司会の五嶋龍さんの三人のヴァイオリニストたちが、「演奏の違い」について語ってくれました。徳永二男さんは長年NHK交響楽団のコンサートマスターを務めていらっしゃいましたので、テレビを通してご存知の方も多いと思います。また、三浦文彰さんは大河ドラマ「真田丸」のオープニングテーマで、ソロを演奏している若き俊英です。ちなみにお父さまの三浦章宏さんは現在東京フィルのコンサートマスターを務めていらっしゃいます。
三浦文彰さんが憧れのヴァイオリニストとして挙げたのはナタン・ミルシテイン。品格と高雅さを感じさせる大家です。決して派手な人ではありませんので、若い奏者からこの名が挙がると「おお!」と思ってしまいますね。徳永二男さんが挙げたのはヤッシャ・ハイフェッツ。「技巧が高い」と呼ばれる名奏者は大勢いますが、そのなかでも別格なのがハイフェッツでしょう。龍さんはお姉さんの五嶋みどりさんの名を挙げていました。幼いころからいちばん身近なところに世界の「MIDORI」がいたわけですから、これは納得です。
後半ではチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲をイヴリー・ギトリスとイツァーク・パールマンの演奏で聴き比べていただきました。ふたりの個性の違いを感じ取っていただけたでしょうか。濃厚で奔放なギトリスと、天衣無縫の流麗さを誇るパールマン。番組内ではほんの少しだけの演奏でしたが、もし機会があったら、全曲演奏を聴いてみてください。同じ曲でもこんなに違ったアプローチができるのかという驚きが待っているはずです。