五嶋龍さんの司会も残すところあと2回となりました。今週の「詩情豊かなヴァイオリンの音楽会」では、龍さんがかねてより弾きたいと言っていたショーソン作曲の「詩曲」をお聴きいただきました。すばらしかったですよね。渾身の名演だったと思います。
エルネスト・ショーソンは1855年、パリの生まれ。フランス音楽というと、華やかさや洒脱さをイメージする方もいらっしゃるかと思いますが、この「詩曲」から伝わってくるのは濃密で深遠な詩情です。若き日よりドイツの作曲家ワーグナーに強い影響を受けたショーソンが円熟期に書きあげたのが、この代表作の「詩曲」。当初はツルゲーネフの小説を題材として、ヴァイオリンと管弦楽のための交響詩「勝ち誇る愛の歌」と題されていましたが、最終的には標題を取り去って、単に「詩曲」と名付けられました。「詩曲」の原題はPoème、つまりポエムです。
「勝ち誇る愛の歌」はひとりの女性を巡る芸術家たちの三角関係を描いた愛憎劇だといいますが、こういった作曲家が途中でボツにした標題案を、どこまで参照すべきなのかは悩むところ。「勝ち誇る愛の歌」だと言われれば、ヴァイオリンがなんとも妖艶な旋律を奏でているようにも聞こえますし、単に「詩曲」だと思って聴けば、純化されたポエジーそのものの音楽とも聞こえます。
ツルゲーネフの小説とはちがって、ショーソン本人は円満な環境にありました。恵まれた家庭で幼少時よりなに不自由なく育ち、早くから教養を身につけ、結婚後は5人の子供に恵まれて、家庭生活も仕事も順風満帆だったといいます。しかし、「詩曲」を書いた3年後、44歳で自転車事故(自動車ではありません)により急逝してしまいました。もしもこの事故がなければ、その先にどんな音楽世界を切り開いたのか。そう思わずにはいられません。
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詩情豊かなヴァイオリンの音楽会
投稿日:2017年03月19日 09:30