オペラの超大作といえば、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」。「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の全4部からなりますので、通して上演するには4日間が必要です。
4部作のなかでは今回特集した「ラインの黄金」がいちばん短く、上演時間は2時間半ほど。いちばん長いのはおしまいの「神々の黄昏」で、こちらは正味4時間半くらいあります。「神々の黄昏」では幕間の休憩もたっぷり入りますので、実際の上演には6時間ほどかかります。そんな長丁場をオペラ歌手のみなさんは大編成のオーケストラと渡り合って歌うのです。はっきり言って、超人です。
物語のスケールの大きさも尋常ではありません。今回の「ラインの黄金」は、ライン川の乙女たちが、地底のニーベルング族のアルベリヒに黄金を盗まれるところから物語が始まります。ラインの黄金で作った指環があれば権力は思いのまま。一方で神々の長であるヴォータンは、女神フリッカを報酬として巨人族にヴァルハラ城を建てさせるのですが、いざ完成すると、フリッカを渡す気などなく、狡猾な火の神ローゲと一計を案じて地底に向かいます。そして、策略でアルベリヒから指環や財宝をとりあげてしまいます。神様なのに卑怯ですよね。ヴォータンは巨人族に報酬として財宝を与えるのですが、その際に、指環まで要求されてしまいます。本当は指環を渡したくないヴォータンですが、智の女神エルダの警告に従って、指環を巨人族の兄弟に渡します。するとさっそく呪いが発動して、指環を欲する兄弟同士の殺し合いが起きるのです。
北欧神話等が物語の題材になっていますが、オペラの台本を書いたのはワーグナー自身。すごいですよね。台本も曲もひとりで書いているのです。この物語は最後に「神々の黄昏」、すなわち神代の終焉までたどり着きます。なんという壮大さ。人類が生んだもっとも偉大なオペラのひとつと呼んでも過言ではありません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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