今週は新シリーズ「3曲でクラシックがわかる音楽会」のモーツァルト編。モーツァルトの天才性はどこにあるのか、鈴木優人さんに解説していただきました。優人さんが注目したのは短調の作品。モーツァルトの曲の大半は長調で書かれているのですが、数少ない短調の曲はとびきりの名曲ばかり。そんな短調の傑作を集めてみました。
モーツァルトはたくさんのピアノ・ソナタを残していますが、短調の曲は2曲だけ。その内の1曲が、優人さんがフォルテピアノで弾いてくれたピアノ・ソナタ第8番イ短調です。ピアノ学習者の方には、この曲を練習したことのある方もいらっしゃるでしょう。とても悲劇的なムードで始まるのですが、さっと明るい光が差し込むようなところもあり、さまざまな表情が生まれてきます。短調と長調の間を自在に行き来しながら、陰影に富んだ音楽を作り出すのがモーツァルトならでは。
オペラ「魔笛」の「夜の女王のアリア」では、限界を超えるような高音が求められます。「魔笛」で描かれるのはメルヘンの世界。こういったアリアから、夜の女王がふつうの人間とは違う存在だということが伝わりますよね。夜の女王は、娘が邪悪なザラストロにさらわれてしまったと主人公に助けを求めるのですが、やがて主人公はザラストロが賢者であることを知ります。そしてザラストロの神殿で試練を乗り越えることで、夜の女王の娘と結ばれます。物語の背景には夜の女王とザラストロの対立関係があり、前者を夜、闇、陰、後者を昼、光、陽のシンボルとして解釈することもできるでしょう。モーツァルトの音楽はこういった独特の世界観を反映しています。
交響曲第40番ト短調はモーツァルトが晩年に書いた傑作です。晩年といっても、モーツァルトは35歳で世を去っていますので、まだ32歳と若いのですが、簡潔なモチーフからこんなにも豊かな感情表現を伴う作品が生まれるとは。これはもう熟練した巨匠の技というほかありません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)