今週はベートーヴェンとシューマンによる2曲のヴァイオリン・ソナタを、それぞれ三浦文彰さん、五嶋龍さんのふたりのヴァイオリニストの演奏でお聴きいただきました。
「ソナタ」という言葉は、クラシック音楽の世界では最頻出ワードのひとつ。でもその意味はなかなか難しい! 同じ「ソナタ」という言葉でも、時代によって意味が違っていたりするので、わかりづらいんですよね。
ベートーヴェンやシューマンの時代では、「ソナタ」という言葉は、ヴァイオリン・ソナタとか、ピアノ・ソナタといったように、主にソナタ形式で書かれた多楽章の器楽曲に使われます。ソナタ形式については番組内でも説明がありましたが、典型的には提示部、展開部、再現部の3部構成からなる形式で、ときには冒頭に序奏が添えられたり(シューマンのソナタがそうでした)、末尾に終結部(コーダ)が付いたりします。このソナタ形式は古典派やロマン派の時代には大いに重用された形式で、実は交響曲や協奏曲でもこのソナタ形式が採用されています。
なぜ、そんな形式が必要なのか。作曲家は芸術家なんだから、既存の形式なんかに束縛されずに、思ったままに曲を書けばいいじゃないか。そんなふうに感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ヴァイオリン・ソナタや交響曲など、ある程度長さを持った楽曲は、いわば長編小説のようなもの。起承転結があります。定まった形式があると、聴く側はたとえその形式を意識せずに聴いているとしても(ふつうはそうだと思いますが)、音楽が持つストーリー性を耳で追いやすくなります。起承転結を伝えるための、ひとつの有力な方法がソナタ形式といえるのではないでしょうか。
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ヴァイオリン・ソナタの音楽会
中村紘子の音楽会
今年7月26日、日本を代表するピアニスト、中村紘子さんがお亡くなりになりました。その業績はあまりに大きく、とても一言では振り返ることができませんが、ピアニストとして、文筆家として、教育者として、すべてにおいて並外れた存在だったことはまちがいありません。
番組内でもご紹介しましたが、1960年にNHK交響楽団が世界一周演奏旅行を敢行したときに、ソリストとして参加したのが当時16歳の中村紘子さんでした。現代でも次々と若い才能があらわれていますが、16歳でこれほどの大役を務めるピアニストなど、想像もつきません。1965年にはショパン国際ピアノ・コンクールで入賞を果たします。そのときの優勝者はあのマルタ・アルゲリッチ。コンクールの水準の高さが察せられます。
アメリカの著名な音楽評論家ハロルド・C・ショーンバーグに『ピアノ音楽の巨匠たち』という名著があります。古今の大ピアニストたちの系譜をたどる大著ですが、この本に唯一登場する日本人が中村紘子さん。戦後、アジアから多くのピアニストが台頭するが、その多くは技術はあっても音楽との真の一体感に欠けると指摘した後、「西欧の音楽家に感銘を与えた数少ないアジア人ピアニスト」として、中村紘子さんの名前が挙げられています。「見事なテクニックとあふれる情熱がある」という賛辞は、本日お聴きいただいたベートーヴェンの「皇帝」にも当てはまるのではないでしょうか。
個人的に忘れられないのは、もう何年も前に中村さんのご自宅にインタビュー取材に伺った際に聞いた「演奏会は一期一会」というお話。全国各地でたくさんのリサイタルをすると、うまくいくときもあれば、そうではないこともある。しかし、音楽家にとって演奏会は数あるうちのひとつであっても、お客様にとってはその一回がすべて。だから一回一回のためにしっかり準備をして、全力を尽くさなければならない。そう、おっしゃるのです。
これほどの大家であっても、どんな公演にも覚悟を持って臨んでいるのだと知り、強い感銘を受けました。
旅の思い出の音楽会
音楽家と旅は切っても切れない関係にあります。モーツァルトはその生涯の約3分の1を旅先で過ごしたといいます。旅先で人と出会ったり、見聞を広めることが、新たな創作意欲の源泉となっていたことはまちがいありません。
現代の音楽家にとっても旅は欠かすことのできないもの。人気演奏家ともなれば各地を転々としながら、そこで演奏会に出演することが日常となっています。本日の「旅の思い出の音楽会」では、そんな旅する音楽家たちが、それぞれの思い出の一曲を披露してくれました。
とりわけ興味深かったのがピアニストの金子三勇士さんのお話です。日本人のお父さんとハンガリー人のお母さんの間に生まれ、6歳から単身でハンガリーに渡り、おばあさんの家に住んだという金子さんは、日本語とハンガリー語、そして英語を使い分けることができます。その金子さんはフランスで聴いたドビュッシーの「月の光」の演奏に、「フランス語の発音のような解釈」を感じたといいます。音楽は言葉の壁を超えて伝わる芸術ではありますが、それでもフランス語を話すから表現できるフランス音楽、ドイツ語を話すから表現できるドイツ音楽、日本語を話すから表現できる日本音楽といった領域が、たしかにあるのでしょう。
三浦文彰さん本人の演奏で「真田丸」メインテーマを聴けたのも嬉しかったですね。作曲は服部隆之さん。これは名曲だと思います。大河ドラマにヴァイオリン協奏曲スタイルの作品は意外な感もありましたが、ヴァイオリンの鋭く切れ込むような音色は、どこか凛然とたたずむ武士を連想させるようにも感じます。ピアノ伴奏版で聴くと、原曲のオーケストラ版とはまた一味違ったクールな雰囲気があって、新鮮な感動がありました。