今週は先週に引き続きまして、「山田和樹が育む未来オーケストラの音楽会」アンコール放送の後編をお届けしました。スペシャル・アドバイザーであるチェロの宮田大さん、ホルンの福川伸陽さんという日本を代表する名手たちも加わり、練習を通してオーケストラがどんどん変わっていく様子が映像から伝わってきました。
山田和樹さんがリハーサル中に目標として掲げたのは「自分にしか出せない音を出すこと」「このメンバーでしかできない音楽をすること」。ドヴォルザークの「新世界より」の部分では、第1ヴァイオリンに対して「個性を出してほしい」と求めると、ぐっと生き生きとした表情の音楽が返ってきました。具体的にどう弾くかという指示はないのですが、子どもたちがしっかりと言葉を受け止めて、音楽として表現してくれるのがすばらしいと思いました。ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の部分で山田さんが求めたのは「胸キュン」。山田さんのアドバイスによって、格段に情感豊かな音楽が湧き出してきます。
本番の演奏は東京藝術大学の奏楽堂で行われました。曲は上田真樹さん編曲の「クラシックのおもちゃ箱」。クラシックの名曲が次々とメドレーで登場します。客席でこの演奏を聴きましたが、冒頭からすごい音が出てきたのにはびっくり。一期一会にかけるみんなの思いがひとつになっていて、まさしく「このメンバーでしかできない音楽」だったと思います。
サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」の部分ではソロの奪い合いをする趣向まで飛び出します。この緊張感のある状況で、こんなに楽しいことをやってのけるとは。山田さんが大好きだというガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の部分では、とても甘美で、ノスタルジーに満ちた音楽が奏でられました。ラヴェルの「ボレロ」によるエンディングは感動的。子どもたちが切り拓く未来は、きっと輝かしいものになるにちがいありません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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