長引くウイルス禍のなか、旅を恋しく感じている方も多いことでしょう。今回は日本を代表する演奏家のみなさんによる、音楽と絶景の旅の第2弾。ドアの向こうに広がる架空の旅に誘ってくれました。
「紅蓮華」を弾いたのはNHK交響楽団でも活躍するヴァイオリニスト、大宮臨太郎さん。普通であればピアノの伴奏が付くところでしょうが、舞台はだれもいない深い森。無伴奏によるたったひとりの「紅蓮華」はとても技巧的で、超然とした雰囲気がありました。カッコよかったですよね。
尺八の藤原道山さんとハープの景山梨乃さんは、スウェーデンのアイスホテルを舞台に「レット・イット・ゴー ~ありのままで~」を共演。「アナと雪の女王」に出てきたエルサの氷の城を思い出さずにはいられません。このアイスホテルはスウェーデン北部のラップランドにある実在するホテルです。凍った川から掘削した氷と雪を用いて建設されています。毎年12月に新しく建てられ、4月には溶けてなくなるのだとか。氷のベッドの上で寝袋に入って寝るそうなのですが、どんな体験になるのか、想像もつきません。
村治佳織さんが演奏したのは自作の「島の記憶~五島列島にて~」。五島列島を訪れた旅の経験から生まれた作品です。頭ヶ島天主堂を背景に、清澄で心地よい音楽が奏でられました。ほのかなノスタルジーも漂ってきて、旅情をそそります。
チクワを吹く動画がSNSで爆発的に拡散されたのが、フルートの多久潤一朗さん。今回は本職のフルートでウィンナワルツの名曲「春の声」を演奏してくれました。しかしそこは多久さん、並の演奏ではありません。スラップ・タンギング、重音奏法、フラッター・タンギングといった特殊奏法が満載。ついにはフルートを縦にして吹くという、まさかの荒業が! フルートって、あんなところから吹けるんですね……。ヨハン・シュトラウス2世も草葉の陰で喜んでいることでしょう。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)