今年の夏は久しぶりに盆踊りが活発に開かれそうです。盆踊りといえば「炭坑節」や「東京音頭」「ソーラン節」などが定番曲でしたが、近年は「ダンシング・ヒーロー」など歌謡曲やJ-POP、さらにはアニメソングなど、多様な楽曲が使用されるようになってきました。案外と音楽の幅が広いのが盆踊り。だったら、クラシックでも盆踊りが可能なのでは? そんな発想から、日本盆踊り協会特別顧問の鳳蝶美成さんをお招きして、前代未聞のクラシック盆踊りにチャレンジしてみました。
では、どんな曲なら盆踊りにふさわしいのか。そこで着目したのが、盆踊りの役割です。鳳蝶さんによれば、盆踊り本来の役割は祖先をもてなし供養し、先祖の霊や無縁仏を送り出すこと。となれば、クラシックでふさわしいのはレクイエム、すなわち「死者のためのミサ曲」しかありません。19世紀後半のフランスで活躍した作曲家フォーレの代表作であるレクイエムより第4曲「ピエ・イエズス」が選ばれました。数あるレクイエムのなかでも、とりわけ清澄な名曲です。これを和洋折衷の盆踊りスタイルに生まれ変わらせたのが「レクイエム音頭」。鳳蝶さんと日本民踊鳳蝶流による斬新な踊りが、新しい世界へと誘ってくれました。
かつて盆踊りには男女の出会いの場という側面もありました。その点でぴったりなのは、モーツァルトのオペラ『魔笛』より「パ・パ・パの二重唱」。このオペラには試練を乗り越えて男女が結ばれるというテーマがあるのですが、物語の道化役がパパゲーノ。意志薄弱で頼りないパパゲーノが、お似合いの相手パパゲーナを見つけてめでたく結ばれます。ふたりの出会いの場面で歌われる「パ・パ・パの二重唱」が「パ・パ・パ音頭」に変身。男女が入れ替わるフォークダンス風の盆踊りには驚きました。
おしまいはベートーヴェンの「第九」による「歓喜の歌音頭」。やはり踊りの基本は喜びでしょう。振付けは跳ねる、回るの動作が加わってダイナミック。やはりベートーヴェンにはこれくらいの力強さが似合いますね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)