今週は日本のクラシック音楽界の重鎮、堤剛さんをお招きしました。80歳にしてチェリストとして第一線で活躍しながら、サントリーホール館長をはじめとする要職を務める堤剛さんは、まさにレジェンドと呼ぶにふさわしい存在です。
最初に演奏されたのはバッハの管弦楽組曲第3番の第2曲「エール」、通称「G線上のアリア」。今回はチェロ四重奏に編曲しての演奏でした。チェロは音域が広いだけに、こうして同じ楽器でアンサンブルを組めるのが魅力ですね。
2曲目に演奏されたハイドンのチェロ協奏曲第1番は、チェリストにとって欠くことのできないレパートリー。ハイドンの名曲のなかでも、とりわけ勢いがあり、はつらつとした生命力にあふれた傑作です。若手奏者たちによるオーケストラの潤いのあるサウンドに、堤さんの味わい豊かなソロが重なり合う様子は、まさに至福のひととき。
最後に演奏されたカタロニア民謡「鳥の歌」は、よくアンコールなどでも耳にする名曲です。バルセロナに代表されるカタロニア地方は、スペインのなかでも独自の文化や言語を誇っています。フランコ政権による厳しい弾圧などの歴史的経緯もあって、今も民族意識の高い地域であり、しばしば独立運動がニュースで取り上げられています。そんなカタロニア出身の伝説的なチェリストがパブロ・カザルス。彼は故郷の民謡「鳥の歌」をチェロのために編曲し、各地でくりかえし演奏しました。
カザルスが晩年に国連で演奏した際は、「私の故郷カタロニアの鳥はピース、ピース(平和)と鳴くのです」とメッセージを述べて、「鳥の歌」を演奏しました。このエピソードが広く知られているため、今でもカザルス編曲の「鳥の歌」を聴くと、そこに平和への祈りを感じ取らずにはいられません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)