とても有名な曲なのに、作者の名前が誤って伝わっている、あるいは本当の作者がわからない。今週はそんな名曲をご紹介いたしました。
「おもちゃの交響曲」はかつてテレビの子供番組で知ったという方も多いのではないでしょうか。ハイドンなのか、弟のミヒャエル・ハイドンなのか、モーツァルトの父レオポルトなのか、それとも無名の神父の作なのか。CDではレオポルト・モーツァルトの作曲とされていることが多いと思います。かわいらしいオモチャを使った曲は教育熱心なレオポルトのイメージにぴったり。だから、レオポルトだったらいいな……という願望を抱いてしまうのですが、諸説あって本当のところはよくわかりません。
「モーツァルトの子守歌」はだれもが知っている曲でしょう。曲はあまりモーツァルトらしくないのですが、なにしろモーツァルト研究者のケッヘルが、モーツァルト作品目録の決定版ともいえる「ケッヘル目録」にこの曲を含めてしまったので、誤った「お墨付き」が付いてしまいました。ケッヘル番号はK.350。ただし後の版の「ケッヘル目録」では疑作として扱われています。
「カッチーニのアヴェ・マリア」は、日本では1980年代に突如として現れた「名曲」です。それまで誰もそんな曲を知らなかったのに、海外のアーティストが歌い出して、あっという間にメジャーな曲になってしまいました。当時は今ほど古楽への関心が高まっていなかったので、本来のカッチーニの作風や作品についてあまり気にする人がいなかったせいもあるでしょう。
「アルビノーニのアダージョ」もバロック音楽らしからぬロマンティックな曲なのですが、これも「カッチーニのアヴェ・マリア」と同様に、古楽についての情報が少ない時代に広まってしまった作品だと言えます。
それにしても偽バロック音楽を、本物のスペシャリスト集団であるバッハ・コレギウム・ジャパンが演奏してくれるとは! 実に痛快でした。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)