今週は東京佼成ウインドオーケストラのみなさんをお迎えして、さまざまなレア奏法について教えていただきました。普段は目にしない奏法がたくさんありましたが、これらは決して奇をてらったものばかりではありません。古くから作曲家たちは、通常とは異なる奏法で想定外の音色や効果を生み出すことに熱心に取り組んできました。最初は風変わりに思えた奏法が、さまざまな曲で使われるうちに、次第に不可欠な特殊奏法として定着してゆくこともしばしば。レア奏法は創意工夫の証と言ってもいいでしょう。
ミュートを用いたトランペットの奏法はだれもがどこかで耳にしているはず。今回はジャズの例が実演されていましたが、クラシックでも、たとえばストラヴィンスキーの「春の祭典」ではトランペットのミュートが印象的な使われ方をしています。
ホルンのゲシュトップ奏法ももはや欠かせない奏法です。今回はリムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」の例が紹介されましたが、チャイコフスキーの「悲愴」やマーラーの「巨人」などでも使われています。金属的で震えるような音色が、独特の効果を醸し出します。
レスピーギの「ローマの祭」で使われるトロンボーンのグリッサンドは効果抜群。なんの説明がなくとも、酔っぱらいが千鳥足で歩いている様子が伝わってきます。さすがオーケストレーションの達人レスピーギ。バルトークの「管弦楽のための協奏曲」でもトロンボーンのグリッサンドが登場して、ブーイングを模したような音を発します。
これらに比べると、「レア度3」の激レア奏法に出会う機会はめったにありません。フルートのジェットホイッスル奏法はもっぱら現代作品に登場する印象ですが、クラシックの作曲家ではヴィラ=ロボスにその名も「ジェットホイッスル」という作品があります。曲の終盤であたかも空に飛んでゆくかのごとく、ジェットホイッスルが連発されます。機会があれば聴いてみてください。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)