昨年、「題名プロ塾」の葉加瀬太郎さんによるオーディションで見事に合格を果たしたヴァイオリニスト、林周雅さんがついに葉加瀬さんのコンサートツアーでデビューを果たしました。NHKホールで記念すべき第一歩を踏み出した林周雅さん。演奏後に見せてくれた達成感にあふれた表情が実に印象的でした。これからのさらなる活躍に期待が高まります。
音楽大学を出てもプロの音楽家として食べていけるのは、ほんの一握りだけ。葉加瀬さんがプロを目指すための実践的なアドバイスをいくつも話してくれましたが、至るところに金言が散りばめられていたと思います。葉加瀬さんが重視するのは「クラシックだけではなくポップスも演奏できること」。同じヴァイオリンであっても、クラシックとポップスでは求められるものがずいぶん違うのだなと感じます。リハーサルが1時間しかなかったり、当日の集合先で初めて譜面を渡されたりといったことは、リハーサル段階での完成度を重視するクラシックの世界では、なかなか経験しがたいことだと思います。
リハーサルの場面で羽毛田丈史さんが要求していた「一定のテンポからあえてはみ出してバンドの音のうねりに乗って演奏する」というお話も興味深いものでした。ポップスの場合、クリックと呼ばれるメトロノーム音をイヤホンで聞きながら演奏しているので、常に全員がこれにぴたりと合わせているのかと思いきや、そうではないんですね。葉加瀬さんは「クリックと遊ぶ」と表現していましたが、こういった即興性から音楽のうねりが生まれてくるのでしょう。演奏を通じてプレーヤー同士が対話するという点では、ポップスもクラシックも同じと言えるかもしれません。
「題名プロ塾」第2弾も、引き続き葉加瀬さんの講師で開催されます。次はいったいどんな才能とキャラクターを持った若者があらわれるのか、楽しみですね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)