もしもクラシックの大作曲家たちが日本のポップスを協奏曲にアレンジしたら……。今回はそんな発想から生まれた実験的シリーズの第5弾。日本の冬を感じさせるポップスの名曲が、本條秀慈郎さん、實川風さん、村治佳織さんの豪華ソリスト陣の演奏で、協奏曲に生まれ変わりました。
第1楽章は「もしもヴィヴァルディが石川さゆりの『津軽海峡・冬景色』をアレンジしたら?」。イタリアのヴェネツィアで活躍した作曲家ヴィヴァルディの代表作といえば、協奏曲集「四季」。その中の「冬」第1楽章が「津軽海峡・冬景色」と融合しました。ヴィヴァルディと石川さゆりでは曲調がぜんぜん違いますが、震えるような冬の厳しさなど、表現している情景は意外と近いかもしれません。しかもソロ楽器は三味線。三味線とオーケストラの共演ということで、楽器編成も和洋混合になっていたのが、おもしろかったですね。
第2楽章は「もしもショパンがglobeのDEPARTURESをアレンジしたら?」。ショパンは自身がすぐれたピアニストでしたので、作品はもっぱらピアノ曲ばかり。ピアノ協奏曲は2曲残していますが、できればもっとたくさん書いてほしかったなと、よく思います。その願いをかなえてくれるような巧みなアレンジで、DEPARTURESがショパン風の流麗でノスタルジックな音楽に仕立てられていました。一般に協奏曲の第2楽章には抒情的なメロディが登場しますが、DEPARTURESはぴったりです。
第3楽章は「もしもヘンデルが山下達郎の『クリスマス・イブ』をアレンジしたら?」。クリスマス・シーンに欠かせない日本のポップスが山下達郎の「クリスマス・イブ」であるように、クラシック音楽ではヘンデルの「メサイア」がクリスマスの定番曲。「ハレルヤ・コーラス」があまりに有名ですが、ほかにも名曲がぎっしりと詰まっています。時代を超えた両曲が重なり合って、華やかなフィナーレを築きました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)