知っているようで知らないことだらけの楽器がハープ。一口にハープといっても20種類以上もの楽器があるというのですから驚きます。
オーケストラで使用されるのはグランドハープ。足のペダルは7本もあります。このペダルのおかげで、半音を自由に出すことができるんですね。優雅なイメージの楽器ですが、足元は大忙し。景山さんがおっしゃっていたように、ハープ奏者はまるで白鳥のよう。優雅に泳ぐ白鳥も水面下では必死に足を動かしている、というわけです。
現在のグランドハープの原型を開発したのは、19世紀の楽器製作者エラールです。エラールはピアノ製作者として知られていますが、創業者セバスチャン・エラールの甥のピエール・エラールがペダル付きのハープを考案しました。
19世紀末、もうひとつのピアノ製作者プレイエルが、エラールに対抗して新方式のハープを売り出します。こちらはペダルを活用するのではなく、弦の数を増やして半音を出す方式。プレイエルは新方式の楽器のデモンストレーション用に、ドビュッシーにハープ曲「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」を書いてもらいます。ところがプレイエルの新方式は普及せず、エラールのペダル式ハープが生き残ることになりました。現在ではドビュッシーの曲もペダル式のハープで演奏されています。7本ものペダルを操るのは大変そうですが、これを上回る方式を編み出すのも難しい、ということなのでしょう。
ケルティックハープではペダルの代わりに手でレバーを操作して半音を出します。松岡さんの演奏を見ていると、右手で曲を奏でながらサッと左手でレバーを操作していて、とてもスムーズ。上松さんのアルパでは、ジャベを弦に押し当てて、半音を出していました。なるほど、楽器に仕組みがなくても、奏者が弦の長さを短くすれば音は高くなるんですね。
ハープの種類によって、まったく違った工夫が凝らされていることに感心させられます。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)