今回は新企画「題名プロ塾」として、葉加瀬太郎さんが音楽家志望者の方々にプロの極意を伝授してくれました。しかも、教えるのみならず、これは葉加瀬さんのコンサートで実際にステージに立つためのオーディションも兼ねています。
ヴァイオリンの場合はどうしてもクラシック音楽をベースとした教育を受けることがほとんど。葉加瀬さんが教えるポップスを弾くための実践的なノウハウは、塾生のみなさんにとって新鮮だったのではないでしょうか。第一次レッスンに参加してくれた塾生は、池永さん、林さん、永田さん、出垣さん、武田さんの5名。みなさんしっかりした演奏技術をお持ちの方ばかりで、個性豊かな「情熱大陸」を披露してくれました。そして、葉加瀬さんのアドバイスで演奏がこんなにも変わるのかという驚きがありました。
池永さんとのレッスンで葉加瀬さんは「ビートを感じているか、感じていないか。行間にビートがある」とおっしゃていました。これはポップスならでは。クラシックでは常にソリストが主役で、伴奏はソリストに付いていくもの。ソリストは一定のビートを刻むのではなく、微妙なテンポの揺れによって音楽に自然な呼吸感を与えます。でも、ポップスの原則はビートありき。同じヴァイオリンの演奏でもずいぶん違うんですね。
林さんの勢いのある「情熱大陸」はインパクト抜群。ここで葉加瀬さんが求めたのは「インテンポ」(一定のテンポ)の演奏。クラシックであれば、曲想に応じて部分的にテンポが走っても、スリリングな演奏として歓迎されることも多いのですが、ここでもジャンルの違いがあらわれていました。
永田さんの「情熱大陸」は、葉加瀬さんとはまったく異なり、エレガントでノーブルなスタイル。葉加瀬さんは永田さんに自分の解釈を押し付けるのではなく、グラッペリを例に出して、永田さんのパーソナリティを尊重していたのが印象的でした。葉加瀬さんの名教師ぶりが伝わるシーンだったと思います。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)