今週は角野隼斗さんをお招きして、プリペアド・ピアノの演奏に挑戦していただきました。プリペアド・ピアノとは、弦にねじやゴムやフェルトなどの異物を装着し,音を変化させるピアノのこと。アメリカの作曲家ジョン・ケージが1940年に「バッカナーレ」という作品のために考案したものです。当初、打楽器アンサンブルを使用するつもりでいたケージですが、会場の演奏する場所が思いのほか狭く、やむを得ず備え付けのグランドピアノを使うことになります。そこで、ピアノの音を変えることを思いつき、弦の間にねじなどの異物を挟みました。こうして偶発的に発明されたプリペアド・ピアノは、以後、現代音楽の分野でしばしば用いられるようになります。
プリペアド・ピアノのために書かれた作品で、とりわけ名高いのが「プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード」。ケージが1946年から48年にかけて作曲しました。この曲は16曲のソナタと4曲のインターリュード(間奏曲)の計20曲から構成され、全曲を演奏すると1時間を超えるくらいの大作です。今回、角野さんが演奏してくれたのは、ソナタ第5番。知らずに聴けばピアノとは思えないような打楽器的な響きがしていました。ソナタ第5番からもわかるように、この曲は意外なほど聴きやすい作品です。ユーモラスな曲、エキゾチックな曲、詩情豊かな曲など、いろいろな曲が集まっており、あまりケージになじみのない方でも全曲を楽しく聴くことができると思います。
角野さんはケージの作品に加えて、アップライトピアノにプリパレーションを施したラヴェルの「ボレロ」や、現代アメリカの作曲家アンディ・アキホの「唐紅(KARAKURENAI)」、さらに即興演奏を披露してくれました。いずれもこれまでに聴いたことのない新しい音楽ばかり。ピアノ3台を使った即興演奏がカッコよかったですよね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)