2025年は「昭和100年」に相当するメモリアルイヤーなのだそうです。現実の昭和は1989年の昭和64年をもって終わりましたが、昭和が続いていると仮定すれば、今年は昭和100年になるというわけです。
石丸さんは「昭和に青春期を過ごした」世代。昭和はこの時代を経験した人々にとって思い出深い時代である一方、若い世代から見ると今とはずいぶん違った日本の姿が垣間見えて新鮮に感じられることが、昭和にスポットライトが当てられる理由でしょう。今回はそんな昭和の空気感をまとった名曲を、現代のアレンジで刷新して、石丸幹二さんに歌っていただきました。
最初の曲は宮田大さんのチェロ、大萩康司さんのギターとの共演で坂本九「心の瞳」。宮田さんのチェロのソロではじまり、石丸さんの歌が続き、ふたりの対話に大萩さんのギターが寄り添います。トリオ・ソナタ風の編成から、やさしく抒情的な味わいが生み出されました。
2曲目は井上陽水「ダンスはうまく踊れない」。マリンバの塚越慎子さんと弦楽器による題名ゾリステンのみなさんとの共演です。意外性のある編曲でしたが、マリンバの音色が柔らかくまろやかで、独特の幻想味を醸し出していました。
3曲目は加藤登紀子「時には昔の話を」。ジブリ映画「紅の豚」では、エンディングテーマに使われました。石丸さんの歌と宮田大さんのチェロのみという簡潔な編成です。まるで石丸さんと宮田さんがふたりで語り合っているようで、寂寞とした雰囲気がなんともいえません。よくチェロは人の声に近い楽器といいますが、納得です。
4曲目は谷村新司「昴 −すばる−」。昭和55年に発表され、一世を風靡した大ヒット曲です。当時は歌詞の意味をまったく気にせず聴いていましたが、石丸さんのお話を聞くと、これは「ジーンとくる」歌詞なのだとわかります。新たな感慨がありました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)