本気でプロを目指す!「題名プロ塾」ソリスト科~後編

投稿日:2025年04月26日 10:30

 今週は先週に続いて、葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」ソリスト科の後編をお届けしました。塾生は木村美宇さん、和久井映見さん、加藤光貴さんの3名。最終レッスンでとりあげたのは、ピアノ、ヴァイオリン、チェロからなるピアノ・トリオによる坂本龍一の作品です。
 「Rain」はもともとは映画「ラストエンペラー」で使われた楽曲で、後にピアノ・トリオ用に編曲されて、アルバム「1996」に収められました。塾生の加藤光貴さんが切れ味鋭い演奏を披露したところ、葉加瀬さんは映画「ラストエンペラー」のどんな場面でこの曲が使われているかに注目するようにアドバイスします。この曲が使われたのは、皇帝との離婚を決意した第二夫人が、雨の中、家を出ていくシーン。葉加瀬さんはヴァイオリンは第二夫人の心の叫びであると指摘し、休符の使い方で心の叫びを表現するように求めます。指摘を受けた後の演奏は、ぐっとエモーショナルな音楽になっていたと思います。
 「ゴリナがバナナをくれる日」は1970年代にテレビCMのために作られた曲で、こちらもアルバム「1996」でピアノ・トリオ用に編曲されています。和久井映見さんの演奏に対して、葉加瀬さんは楽譜上のコンマに注目して、曲想が変化する場所を指摘します。些細なことのようでいて、レッスンの前後でずいぶん音楽の表情が変わっていました。木村美宇さんの演奏に対しては、ヴァイオリンの同じメロディが再現する場面で、ピアノが聴く人の予想を裏切っていったんの沈黙の後に出てくるところに着目します。葉加瀬さんがここに求めるのは「燃えたぎるようななにか」。楽譜を注意深く読むことで、音楽的な頂点がどこにあるのかがわかるというお話でした。
 塾生の皆さんそれぞれが見事な演奏を聴かせてくれた結果、最後に「首席」に選ばれたのは和久井映見さん。「表現をしようという力が強い」という講評があったように、聴く人を惹きつける演奏だったと思います。これからの活躍を期待しています!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

本気でプロを目指す!「題名プロ塾」ソリスト科~前編

投稿日:2025年04月19日 10:30

 今週は葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」ソリスト科の前編をお届けしました。プロの実践的なノウハウを伝授する「題名プロ塾」ですが、今回はさらに一歩進んだ「ソリスト科」。主役を担える新世代のヴァイオリニストを育成するための指導が行われました。
 多数の応募のなかから選ばれた受講生は、木村美宇さん、和久井映見さん、加藤光貴さんの3名。今回の課題曲はそれぞれロマ音楽、ジャズ、タンゴといった世界各地の大衆的な音楽にルーツを持ちつつ、クラシック音楽の世界でも知られる作品ばかり。クラシック音楽とポピュラー音楽の垣根を超えた楽曲が選ばれています。
 最初にモンティの「チャールダーシュ」を弾いてくれたのは木村美宇さん。澄んだ音色で端正に弾いてくれましたが、葉加瀬さんは冒頭のメロディにロマの哀しみを求めます。「勝手に歌詞をつけていいから歌だと思って弾いてほしい」というアドバイスを受けた後の演奏は、格段に感情を揺さぶる演奏になっていました。
 「チャールダーシュ」の後半部分では和久井映見さんがとても速いテンポで小気味よい演奏を披露。しかし葉加瀬さんはこのテンポを後にとっておけばよいとアドバイス。そして、音楽が転がらないようにするためのコツを提案します。アドバイス後の演奏のほうが、ぐっと引き込まれる音楽になっていました。
 ガーシュインの「アイ・ガット・リズム」では、題名プロ塾第2弾にも出演した加藤光貴さんが再度のチャレンジ。とてもカッコよく弾いてくれたのですが、葉加瀬さんは、もともとこの曲についている歌詞に着目して、言葉のリズムを反映させるように求め、さらに説得力のある演奏を引き出します。「原曲の歌詞にはヒントが山のようにある」と教えてくれました。
 ピアソラの「リベルタンゴ」では3人そろっての指導が行われました。三者三様の個性があらわれていましたが、葉加瀬さんの指導によって、3人がどんどんと変わっていく様子がよくわかります。次回は3人のなかから「首席」が選ばれることに。いったい誰が選ばれるのか、楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

新世代のイチ推し!新しいクラシックの音楽会2025春

投稿日:2025年04月12日 10:30

 クラシック音楽とは決して何百年も前の曲ばかりを指すものではありません。現在も多くの作曲家たちが新作を生み出しており、演奏家たちは新たなレパートリーに挑んでいます。今回は「新しいクラシック音楽」と呼ぶべき作品を、ヴァイオリンの辻彩奈さんとピアノの阪田知樹さんに演奏していただきました。
 最初の曲はブラジルの作曲家、フランシスコ・ミニョーネによるソナチネ第4番。ブラジルの大衆音楽の要素を取り入れているというお話がありましたが、聴きやすい一方で、リズムにおもしろみがあって、斬新なテイストがありました。カッコいい曲でしたよね。
 2曲目はアルフレッド・シュニトケの「古い様式による組曲」より「パントマイム」。シュニトケは現代音楽の世界ではよく知られた作曲家です。ロシアに生まれドイツに移った作曲家で、その作風はしばしば「多様式主義」という言葉で説明されます。特定の語法に頼らず、さまざまな様式が渾然一体となったところに特徴があります。今回の曲も、いかにも古風な体裁で始まり、途中で聴く人の予測をくつがえすような展開が用意されていました。おしまいで少し不穏な余韻を残して終わるあたりも現代的です。
 3曲目はイギリスの作曲家、ジェラルド・フィンジの「エクローグ」より。フィンジは20世紀前半の人ですので時代的には新しいとは言えないのですが、まだ日本では十分に知られていないという意味では「新しいクラシック音楽」です。イギリスの田園地帯を思わせるような安らいだ楽想が印象的でした。これから再評価が進む作曲家ではないでしょうか。
 最後はスコット・ウィーラーの「アイソレーション・ラグ」。アイソレーション、すなわち孤立。コロナ禍におけるロックダウンをきっかけに書かれたという点で、まさに今の時代の音楽です。過去の協奏曲の一部が引用されるのは、他者と共演することへの憧れの表現でしょう。外出を自粛していた頃を思い出しながら聴き入りました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

昭和100年!ジーンとくる歌の音楽会

投稿日:2025年04月05日 10:30

 2025年は「昭和100年」に相当するメモリアルイヤーなのだそうです。現実の昭和は1989年の昭和64年をもって終わりましたが、昭和が続いていると仮定すれば、今年は昭和100年になるというわけです。
 石丸さんは「昭和に青春期を過ごした」世代。昭和はこの時代を経験した人々にとって思い出深い時代である一方、若い世代から見ると今とはずいぶん違った日本の姿が垣間見えて新鮮に感じられることが、昭和にスポットライトが当てられる理由でしょう。今回はそんな昭和の空気感をまとった名曲を、現代のアレンジで刷新して、石丸幹二さんに歌っていただきました。
 最初の曲は宮田大さんのチェロ、大萩康司さんのギターとの共演で坂本九「心の瞳」。宮田さんのチェロのソロではじまり、石丸さんの歌が続き、ふたりの対話に大萩さんのギターが寄り添います。トリオ・ソナタ風の編成から、やさしく抒情的な味わいが生み出されました。
 2曲目は井上陽水「ダンスはうまく踊れない」。マリンバの塚越慎子さんと弦楽器による題名ゾリステンのみなさんとの共演です。意外性のある編曲でしたが、マリンバの音色が柔らかくまろやかで、独特の幻想味を醸し出していました。
 3曲目は加藤登紀子「時には昔の話を」。ジブリ映画「紅の豚」では、エンディングテーマに使われました。石丸さんの歌と宮田大さんのチェロのみという簡潔な編成です。まるで石丸さんと宮田さんがふたりで語り合っているようで、寂寞とした雰囲気がなんともいえません。よくチェロは人の声に近い楽器といいますが、納得です。
 4曲目は谷村新司「昴 −すばる−」。昭和55年に発表され、一世を風靡した大ヒット曲です。当時は歌詞の意味をまったく気にせず聴いていましたが、石丸さんのお話を聞くと、これは「ジーンとくる」歌詞なのだとわかります。新たな感慨がありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

角野隼斗が新たな音を生み出す!プリペアド・ピアノの音楽会

投稿日:2025年03月29日 10:30

 今週は角野隼斗さんをお招きして、プリペアド・ピアノの演奏に挑戦していただきました。プリペアド・ピアノとは、弦にねじやゴムやフェルトなどの異物を装着し,音を変化させるピアノのこと。アメリカの作曲家ジョン・ケージが1940年に「バッカナーレ」という作品のために考案したものです。当初、打楽器アンサンブルを使用するつもりでいたケージですが、会場の演奏する場所が思いのほか狭く、やむを得ず備え付けのグランドピアノを使うことになります。そこで、ピアノの音を変えることを思いつき、弦の間にねじなどの異物を挟みました。こうして偶発的に発明されたプリペアド・ピアノは、以後、現代音楽の分野でしばしば用いられるようになります。
 プリペアド・ピアノのために書かれた作品で、とりわけ名高いのが「プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード」。ケージが1946年から48年にかけて作曲しました。この曲は16曲のソナタと4曲のインターリュード(間奏曲)の計20曲から構成され、全曲を演奏すると1時間を超えるくらいの大作です。今回、角野さんが演奏してくれたのは、ソナタ第5番。知らずに聴けばピアノとは思えないような打楽器的な響きがしていました。ソナタ第5番からもわかるように、この曲は意外なほど聴きやすい作品です。ユーモラスな曲、エキゾチックな曲、詩情豊かな曲など、いろいろな曲が集まっており、あまりケージになじみのない方でも全曲を楽しく聴くことができると思います。
 角野さんはケージの作品に加えて、アップライトピアノにプリパレーションを施したラヴェルの「ボレロ」や、現代アメリカの作曲家アンディ・アキホの「唐紅(KARAKURENAI)」、さらに即興演奏を披露してくれました。いずれもこれまでに聴いたことのない新しい音楽ばかり。ピアノ3台を使った即興演奏がカッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

第33回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

投稿日:2025年03月22日 18:19

 今週は第33回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。同賞は「題名のない音楽会」放送25周年を記念して、1990年に制定されました。今年の受賞者はピアノの務川慧悟さん、ヴァイオリンの戸澤采紀さん、同じくヴァイオリンの前田妃奈さんの3名。それぞれの受賞者のみなさんがガラコンサートにふさわしい気持ちのこもった演奏を披露してくれました。
 務川慧悟さんが選んだのはラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。フランス音楽に深い共感を寄せる務川さんらしく、20世紀フランスを代表する傑作協奏曲を鮮やかに演奏してくれました。留学時代に師のフランク・ブラレイ(有名なピアニストです)から、たった5分の曲のレッスンに1時間30分もかけられて自信を砕かれたというエピソードがありましたが、それほど緻密な音楽作りが要求されるのかと驚かされます。
 戸澤采紀さんはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調を演奏。高揚感あふれる快演でした。戸澤さんのお父さんは著名なヴァイオリニスト、戸澤哲夫さん。子どもの頃から「戸澤哲夫さんの娘さん」と呼ばれてしまうことは避けられません。それに対して「いつか父を戸澤采紀のお父さんと呼ばせよう」と思って頑張ったと言います。音楽一家ならではの苦労もあったとは思いますが、すばらしい親子関係ではないでしょうか。
 前田妃奈さんが演奏したのは、「本当に大好きな作品」と語るブルッフの「スコットランド幻想曲」。演奏する様子からも、この曲に対して並々ならぬ思い入れを持っていることが伝わってきます。ドイツの作曲家ブルッフは民謡の持つ普遍性を信じ、スコットランド民謡をこの曲に取り入れました。メロディの親しみやすさと雄大なロマンティシズムが一体となっており、前田さんの演奏にあらためて作品の魅力を知った思いがします。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

日本を代表する名指揮者、秋山和慶が残したメッセージ

投稿日:2025年03月15日 10:30

 今週は今年1月に84歳で世を去った日本を代表する名指揮者、秋山和慶さんの功績を振り返りました。
 秋山和慶さんのデビューは1964年。23歳で東京交響楽団を指揮しました。日本のほとんどのオーケストラを指揮してきた秋山さんですが、東京交響楽団とはキャリアの最初期から特別な結びつきがあり、1968年から2004年までの長きにわたって音楽監督・常任指揮者を務めました。
 なにしろデビュー直後に、スポンサー契約の打ち切りにより楽団の経営が破綻し、自主運営の団体として再出発するという試練を迎えたのですから、その苦労は想像に余りあります。少しでも仕事を増やそうとした結果、「ひと月に32回本番があった」という凄まじい状況に。そのすべてを秋山さんがひとりで指揮したといいますから、尋常ではありません。
 世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルからの客演を3回も断ったというお話がありましたが、それも先に東京交響楽団のスケジュールが入っていたから。もしも秋山和慶指揮ベルリン・フィルの演奏会が実現していたら……と、つい思ってしまうところですが、秋山さんは「自分の楽団を放っておいてベルリンに行くことなどはできない、してはならない」と、ご自身の回想録で振り返っています。
 秋山さんは北米を中心に国際的に活躍した指揮者でもありました。1972年にカナダのヴァンクーヴァー交響楽団の音楽監督に就任。31歳の若さで海外のオーケストラの音楽監督に就任したわけです。以後、アメリカ交響楽団の音楽監督、ニューヨーク州のシラキュース交響楽団音楽監督を歴任しました。
 秋山さんは後進の育成にも力を注ぎました。弟子にあたるNHK交響楽団正指揮者の下野竜也さんが、若き日に秋山さんに言われた言葉は「音楽を出世や自分をよく見せるための道具に使っちゃいけない」。秋山さんの人柄が偲ばれます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

題名のない音楽会放送60周年組曲の音楽会

投稿日:2025年03月08日 10:30

 今週は一年間をかけて少しずつ収録を進めてきたスペシャル企画「題名のない音楽会放送60周年組曲」をお届けしました。イメージしたのは、バロック音楽の古典組曲。バッハでいえばフランス組曲やイギリス組曲、無伴奏チェロ組曲といった組曲が典型ですが、前奏曲で始まって、アルマンド、サラバンド、メヌエット、ジーグなど種々の舞曲が続くスタイルです。この古典組曲の枠組みを借りて、出演者のみなさんに一曲ずつ演奏してもらい、ぜんぶそろったところでひとつの組曲として放送しようというプランを立てて、収録を積み重ねてきました。こうしてまとめて聴くと、改めてすばらしい奏者のみなさんに参加していただけたと感じますね。
 全10曲からなる組曲ですが、最初はやはり前奏曲(プレリュード)がよいだろうということで、鈴木優人さんがバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻のプレリュード第1番を弾いてくれました。
 2曲目からはバロック期の舞曲にこだわらず、次々といろいろな踊りの音楽が登場します。第2曲から第5曲まではワルツ・セクション。反田恭平さんのショパン「小犬のワルツ」、角野隼斗さんの自作「大猫のワルツ」、上野耕平さんのボノー「ワルツ形式によるカプリス」、務川慧悟さん、小林愛実さん、反田恭平さんのラフマニノフの「6手ピアノのための小品」よりワルツが並びました。
 第6曲から第8曲は和のセクション。藤原道山さん、本條秀慈郎さん、LEOさんによる和楽器を用いたバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」、LEOさんの「松風」、藤田真央さんの野平一郎「音の旅」より「秋祭り」が演奏されました。
 第9曲と第10曲で、ふたたびバッハが帰ってきます。宮田大さんはバッハの無伴奏チェロ組曲第3番より第5曲ブーレを演奏。ブルース・リウさんはバッハのフランス組曲第5番のジーグを選んでくれました。明るく軽快なジーグは、組曲のしめくくりにぴったり。さわやかな幕切れでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

実はひねくれ者だったエリック・サティの音楽会

投稿日:2025年03月01日 10:30

 今週は異端児として知られるフランスの作曲家、エリック・サティの音楽をお楽しみいただきました。80年代頃、日本でサティのブームが起きました。「ジムノペディ」をはじめ、「グノシエンヌ」や「ジュ・トゥ・ヴ」など、サティの曲がよくBGMに使われるようなります。サティといえばおしゃれなカフェで流れていそうな曲、というイメージはこの頃にできたものでしょう。本日演奏された曲も、なにも知らずに聴けば気持ちのよい音楽ばかりだと思います。
 ところが実際のサティはとんでもないひねくれ者だったんですね。「犬のためのぶよぶよした前奏曲」を出版社に持ち込んだら出版を断られたので、「犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲」を持ち込んだというエピソードなど、並の神経ではありません。奇抜なタイトルの曲はほかにもたくさんあり、「梨の形をした3つの小品」や「官僚的なソナチネ」などにも、サティのひねくれ者ぶりがあらわれています。
 奇行も多かったようです。自作のバレエ音楽をパリ・オペラ座で上演してもらおうと楽譜を送りますが、これを無視されたために支配人に決闘を申し込んだとか(面会は実現しましたが上演は断られました)、批評家に無礼な手紙を送ったかどで罰金刑を課されたりとか、さまざまな逸話が語り継がれています。
 楽壇の主流派にはなりえなかったサティですが、不思議なことにドビュッシーとは気が合ったようで、若くして知り合って以来、長年にわたる交友関係を築きました。ただし、その友情には複雑なところもあったようです。音楽界の脚光を浴びるドビュッシーに対して、サティは自身の屈従を隠そうとしてか、もっぱら道化役に甘んじたといいます。「梨の形をした3つの小品」は、ドビュッシーに「もっと形式に気を配るべきだ」と指摘されたサティが、その忠告にこたえた書いた作品だとか。サティのひねくれ者ぶりがよく伝わってきます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

60周年記念企画⑩山田和樹が育む未来オーケストラの音楽会~本番

投稿日:2025年02月22日 10:30

 番組放送60周年を記念したプロジェクト「未来オーケストラ」。前回と前々回で練習の模様をお届けしましたが、今回はついに本番を迎えました。東京藝術大学の奏楽堂を舞台に、18歳以下の子どもたちが上田真樹さん編曲の「クラシックのおもちゃ箱」を演奏してくれました。
 指揮の山田和樹さんが言うには「やる気のある子どもたちが集まった。二度とない経験ができた」。子どもたちの一期一会にかける思いが伝わってきました。こんなにも熱くて濃密な音は、ふつうの演奏会ではなかなか聴けるものではありません。子どもたちは緊張した面持ちで入場してきましたが、いざ演奏がはじまると、音楽に完全に集中している様子。みんなが指揮者をよく見ていることも、映像からわかりました。
 「ツィゴイネルワイゼン」の部分で、子どもたちが入り乱れてソロを奪い合うという趣向にはびっくり。まさか、そんな演出が入るとは! しかもみんなソロが上手なんですよね。「新世界より」の部分も練習の成果が発揮されて、アボカドのような濃厚さ。「ロメオとジュリエット」の部分では、モンタギュー家とキャピュレット家の対立が、鋭く勢いのある音で表現されていました。
 「ラプソディ・イン・ブルー」の部分は柔らかく、しなやか。山田さんが大好きだと言っていたところですが、ニュアンスに富んだ音に胸がいっぱいになります。最後の「ボレロ」でみんながいっせいに立ち上がった場面も決まっていました。
 山田さんは今回の練習を通じて「こうしなきゃダメ!」といった指示は、ほとんど出さなかったと言います。みんなが自発的に考えて、リハーサルではうまくいかなかったことも本番ではうまくいったとか。本当に頼もしいですよね。子どもたちの前に広がる輝かしい未来に思いを馳せずにはいられません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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