今週は先週に続いて、葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」ソリスト科の後編をお届けしました。塾生は木村美宇さん、和久井映見さん、加藤光貴さんの3名。最終レッスンでとりあげたのは、ピアノ、ヴァイオリン、チェロからなるピアノ・トリオによる坂本龍一の作品です。
「Rain」はもともとは映画「ラストエンペラー」で使われた楽曲で、後にピアノ・トリオ用に編曲されて、アルバム「1996」に収められました。塾生の加藤光貴さんが切れ味鋭い演奏を披露したところ、葉加瀬さんは映画「ラストエンペラー」のどんな場面でこの曲が使われているかに注目するようにアドバイスします。この曲が使われたのは、皇帝との離婚を決意した第二夫人が、雨の中、家を出ていくシーン。葉加瀬さんはヴァイオリンは第二夫人の心の叫びであると指摘し、休符の使い方で心の叫びを表現するように求めます。指摘を受けた後の演奏は、ぐっとエモーショナルな音楽になっていたと思います。
「ゴリナがバナナをくれる日」は1970年代にテレビCMのために作られた曲で、こちらもアルバム「1996」でピアノ・トリオ用に編曲されています。和久井映見さんの演奏に対して、葉加瀬さんは楽譜上のコンマに注目して、曲想が変化する場所を指摘します。些細なことのようでいて、レッスンの前後でずいぶん音楽の表情が変わっていました。木村美宇さんの演奏に対しては、ヴァイオリンの同じメロディが再現する場面で、ピアノが聴く人の予想を裏切っていったんの沈黙の後に出てくるところに着目します。葉加瀬さんがここに求めるのは「燃えたぎるようななにか」。楽譜を注意深く読むことで、音楽的な頂点がどこにあるのかがわかるというお話でした。
塾生の皆さんそれぞれが見事な演奏を聴かせてくれた結果、最後に「首席」に選ばれたのは和久井映見さん。「表現をしようという力が強い」という講評があったように、聴く人を惹きつける演奏だったと思います。これからの活躍を期待しています!
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)