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クラシック奏者が演奏したいディズニーの音楽会

投稿日:2023年11月25日 10:30

 今週はLEOさん、荒井里桜さん、Cocomiさんをお招きして、ディズニー映画の名曲をお届けしました。いずれも映画の枠を超えて愛される名曲ばかり。どんな楽器や編成であっても、曲のエッセンスが伝わってくるところがディズニー名曲の名曲たるゆえんでしょう。
 一曲目は「ピノキオ」より「星に願いを」。ディズニー映画のオープニングで使われる、ディズニーのシンボルともいえる名曲です。今回は箏、ヴァイオリン、フルートという独自の編成で。ヴァイオリンとフルートの優雅な音色にきらびやかな箏が加わって、爽快なテイストが生まれていました。作曲者はリー・ハーライン。初期のディズニー作品をはじめ、さまざまな映画のために曲を書いた作曲家です。
 Cocomiさんが選んだ曲は「リトル・マーメイド」より「パート・オブ・ユア・ワールド」。こちらもおなじみの名曲です。Cocomiさんの清澄でのびやかなフルートから、曲に込められた憧れや期待感が伝わってきます。ディズニーの名曲を聴くと、映画の特定のシーンだけに当てはまるのではなく、普遍的な人間の感情が表現されていると感じることがよくあるのですが、この曲はまさにその典型ではないでしょうか。
 荒井里桜さんが選んだのは「アラジン」より「ホール・ニュー・ワールド」。華やかなヴァイオリンがジャスミン、深い音色のチェロがアラジンの役を担い、ふたりの掛け合いがくりひろげられる趣向が素敵でしたね。「ホール・ニュー・ワールド」も「パート・オブ・ユア・ワールド」も作曲はアラン・メンケン。1989年以降、ディズニー映画の音楽に新たな黄金期をもたらしました。
 LEOさんが選んだのは、「白雪姫」より「いつか王子様が」。こちらは初期のディズニーを支えたフランク・チャーチルの作曲です。すでにジャズのスタンダードになっている曲ですが、これを箏とストリングスで聴くのは新鮮な体験でした。箏が日本の伝統楽器であることを忘れてしまいそうです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ファイナリストが選ぶ世界最高峰のピアノ“Shigeru Kawai”の工場を視察する休日

投稿日:2023年11月18日 10:30

 今回は「楽器の街」として知られる静岡県浜松市からお届けしました。新幹線で浜松駅を訪れるとコンコースに河合楽器のShigeru Kawaiが置いてあるのをご覧になったことのある方もいらっしゃると思います。さすが、浜松と思いますが、お値段を聞いてびっくり。まさかの2100万円のストリート・ピアノ……。
 そのShigeru Kawaiを愛好するピアニスト、務川慧悟さんはエリザベート王妃国際音楽コンクール第3位、ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール第2位など、数々の国際コンクールで受賞歴を誇る名手。浜松駅でバッハのフランス組曲第5番のアルマンドを弾いてくれましたが、たまたま通りがかった方はラッキーでしたよね。
 もとより評価の高いShigeru Kawaiでしたが、その名が一段と知られるようになったのは、2021年のショパン国際ピアノ・コンクールでの躍進のおかげでしょう。コンクールの公式ピアノに選ばれたのは、スタインウェイ、ヤマハ、ファツィオリ、カワイの4社のみ。同コンクールの本選参加者87人中6人がShigeru Kawaiを選び、その6人中3人がファイナルに残ったのですから、この楽器に注目が集まるのももっともな話です。
 そのひとりが第2位を受賞したアレクサンダー・ガジェヴさん。Shigeru Kawaiについて「音に温もりがあり、ショパンが当時使用していた楽器であるプレイエルを思わせる温かさがある」と称賛していました。務川さんも「木の音がする」と表現していましたので、やはり温かみのある音に特徴があるのでしょう。
 河合楽器竜洋工場をご案内いただきましたが、職人魂と最新テクノロジーが一体となったような場所で、見ていてワクワクします。そして、ここで務川さんが弾いてくれたのがホロヴィッツ編曲の「カルメン幻想曲」! これは強烈でしたね。なんというテクニック。最高の楽器でくりひろげられる最高にエキサイティングな快演に、思わず思わずブラボーと叫びたくなりました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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絵画からイメージするフランス名曲の音楽会

投稿日:2023年11月11日 10:30

 今週は絵画からイメージする名曲を、ピアノの務川慧悟さん、Cocomiさんに演奏していただきました。ともにフランス音楽を得意とするおふたりが、サティ、ドビュッシー、ラヴェル、プーランクが残した19世紀末から20世紀初頭の作品を披露してくれました。
 最初に演奏されたのはサティのジムノペディ第1番。曲名は古代ギリシャの神さまを讃える少年たちの裸の踊りに由来します。一説によればサティはその祭りを描いた古代の壺から着想を得たのだとか。Cocomiさんが「華やかな祭典の後に回想するイメージ」と語っていたように、淡々とした曲想にはどこか追憶に浸るような趣があります。
 ドビュッシーのアラベスク第1番は、Cocomiさんがアンリ・ル・シダネルの絵画「夕暮の小卓」から連想した曲。Cocomiさんはこの絵にメランコリーを感じ、色づかいの共通性からドビュッシーの「アラベスク」を連想したと言います。
 務川さんがルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」から連想したのは、ラヴェルの「水の戯れ」。ルノワールの絵画は暗い色を多く使いながら、光の印象を際立てていると言います。きらきらとした高音を多用した「水の戯れ」にも光のイメージがあふれていますよね。美術の世界だけではなく、音楽でも「印象主義」という言葉が用いられるのですが、その先駆的な例としてよくあげられるのが「水の戯れ」です。
 最後にCocomiさんと務川さんが演奏したのは、プーランクの「消えた男」。シダネルの幻想的な夜の光景を描いた作品「コンコルド広場」から連想した一曲です。原曲が歌曲ですので、「消えた男」には歌詞があります。この詩ではドイツ軍に捕らえられた友人が行方知れずとなったことを嘆いているのですが、曲調には吹っ切れたようなすがすがしさが感じられるのが、プーランクらしいところ。寂しさと明るさが不思議と共存しているところに、シダネルの絵画との共通点が浮かび上がってきます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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秋から連想する音楽会

投稿日:2023年11月04日 10:30

 今週は「秋から連想する音楽会」と題して、秋から連想する言葉を数珠つなぎにして、その言葉からイメージされる曲をゲスト奏者のみなさんに演奏していただきました。
 まず「秋」といえば「紅葉」。マリンバの塚越慎子さん、チェロの伊藤悠貴さん、箏のLEOさんにより、おなじみの唱歌「もみじ」を特別アレンジでお楽しみいただきました。三者三様のソロで彩られた、さわやかな「もみじ」でしたね。
 塚越慎子さんが「紅葉」から連想した言葉は、紅葉の名所「いろは坂」。イメージした曲は「ドレミの歌」です。これは説明を聞けば納得。イタリア語の「ドレミファソラシド」を日本語の音名で表せば「ハニホヘトイロハ」。「ハ長調」とか「ニ長調」といった言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、あの「ハ」とか「ニ」は日本語の音名なんですね。塚越さんは4本のマレットを使って鮮やかな技巧を披露。特殊奏法まで盛り込まれた斬新な「ドレミの歌」を披露してくれました。
 LEOさんが「いろは坂」から連想したのは「ドライブ」。曲はアヴィーチーの「レヴェルズ」でした。ノリノリの曲をかけてドライブをするイメージからの選曲です。EDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)が、箏とストリングスというまったく独自の編成で生まれ変わることに。透明感のあるみずみずしいサウンドが爽快でした。
 伊藤悠貴さんが「ドライブ」から連想したのは「ハミング」。曲はラフマニノフの「ヴォカリーズ」でした。ヴォカリーズとは母音唱法のこと。歌詞がなく母音だけで歌うことを指します。たしかにハミングに近いですよね。原曲は歌曲ですが、さまざまな楽器のためにアレンジされている名曲です。伊藤さんにとってラフマニノフは大切な作曲家。ラフマニノフのチェロ作品全集をレコーディングしたり、ロンドンでラフマニノフの作品だけのリサイタルを開いたほか、ラフマニノフの研究書も著しています。そんな伊藤さんのラフマニノフへの熱い思いが反映されたような、情感豊かな「ヴォカリーズ」でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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