今週はいまピアノ・レッスンの世界で大人気の作曲家、ギロックの魅力をお伝えいたしました。
ギロックという名前、ご存知でしたか? 近年ピアノ学習者の間でじわじわと人気が広がり、今や発表会に欠かせない作曲家といってもいいでしょう。
ギロックは幅広い作風の曲を書いています。クラシックの大作曲家を思わせる曲もあれば、ジャズ風の作品もあって、実に多彩です。よくギロックに添えられるキャッチフレーズは「教育音楽界のシューベルト」。親しみやすく、素朴な美しさにあふれた自然体の音楽を書くことから、このように呼ばれるのでしょう。
ギロックは1917年、アメリカ生まれ。少年時代よりピアノを学んでいましたが、総合大学に進学し、美術を専攻しました。しかし音楽への道をあきらめきれず、もう一度音楽を基礎から学び直し、作曲にチャレンジします。このときに学んだ教授のアドバイスに従って、子供でも弾けそうな小品を何十曲も書いて楽譜出版社に送ったところ、そのうちの数曲が売れて、当時のギロックにとっては大きな収入を得ることができました。これが作曲家ギロックの第一歩となりました。
ギロックはピアノ教師として全米各地のワークショップやコンクールを巡りました。ピアノ教師としてのギロックは、とてもポジティブなエネルギーにあふれた人だったようです。子供の演奏に対してA、B、C、Dで評価する場面で、しばしば「A+++++++」のような採点で上手に弾けた子供を励ましましたといいます。ピアノ教師は子供が努力したところをほめるべきであり、ネガティブなことをいうべきではないというのがギロックの信条。一方、コンクールでの勝利をひたすら求めるような教育法には批判的でした。
そんなギロックのやさしい人柄が、作品からも伝わってきたような気がします。
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ピアノ界で大人気・ギロックを知る休日
世界が称賛した日本人作曲家の音楽会
近年、20世紀の日本人作曲家たちを再評価する機運が高まっていると感じます。クラシック音楽をヨーロッパから取り入れる過程のなかで、日本の多くの音楽家たちが西洋音楽の伝統を学ぶとともに、日本固有の文化を反映させた独自の音楽を作り上げてきました。本日の「世界が称賛した日本人作曲家の音楽会」では、そんな20世紀の日本を代表するふたりの作曲家、伊福部昭と黛敏郎をご紹介いたしました。
伊福部昭といえば、なんといっても「ゴジラ」のテーマ曲がよく知られていますが、「ゴジラ」に先んじてあの有名なテーマが登場するのが、「ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲」。気鋭のヴァイオリニスト、山根一仁さんのキレキレの独奏でお楽しみいただきました。あの「ゴジラ」の主題の部分も迫力があってすばらしいのですが、山根さんが「桜が散るような儚さ」と表現していた抒情的な部分も聴きごたえがありましたよね。若い奏者がこういった作品を演奏してくれると、作品がまた新たな生命を得てフレッシュによみがえったような気持ちになります。「名演が名曲を作る」などと言われますが、こうして次代の奏者へと奏で継がれることで、作品は「名曲」と呼ばれるようになっていくのでしょう。
黛敏郎は戦後のヨーロッパの前衛音楽をいちはやく自作にとりいれた先駆者。ベルリン・ドイツ・オペラから委嘱された三島由紀夫原作のオペラ「金閣寺」のような大作もあれば、テレビで耳にする「スポーツ行進曲」のような曲も残しています。今回演奏された「饗宴」を吹奏楽バージョンでご存知の方もいらっしゃるでしょう。
伊福部昭と黛敏郎、ふたりの作風はまったく違いますが、どちらも日本独自の音楽文化を体現した存在であることにはちがいがありません。「日本のクラシック」として、今後ますます演奏される機会が増えてゆくのではないでしょうか。
辻井伸行の大切な曲を聴く休日
辻井伸行さんがCDデビューを果たしたのは2007年10月のこと。デビュー10周年を迎え、今年30歳になる辻井さんに、ご自身が「大切な曲」と語る作品を演奏していただきました。ラヴェルの「水の戯れ」やリストの「ラ・カンパネラ」とともに、自作の「それでも、生きてゆく」が選ばれていました。作曲もするピアニストにとって、自作曲が大切な曲であるのは当然のことでしょう。
同世代と分かり合えた曲としてショパンのピアノ協奏曲第1番が挙げられていたのも印象的でした。こちらは以前、この番組で五嶋龍さんをはじめとする若手奏者たちと辻井さんが室内楽編成で共演した曲です。なにしろ辻井さんはデビュー10周年といっても、まだ今年で30歳という若さ。あまりに早くからキャリアがスタートしたため、これまでは同世代との共演のチャンスがほとんどありませんでした。それがようやく同年代の奏者たちが活躍する年齢に到達し、三浦文彰さんのような友人たちから新たな刺激を受けるようになったといいます。三浦さんのコメントをうれしそうに聞く辻井さんの表情が実によかったですよね。
優勝したヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールでのエピソードで披露された辻井さんの練習方法はとても興味深いものでした。目の見えない辻井さんがどうやって楽譜を覚えるのか。よくCDで聴いて覚えるのだと誤解されるそうですが、そうではないんですね。先生に楽譜に書いてあることを片手ずつ感情を込めずに機械のように弾いて録音してもらって、これを耳で聴いて覚えて、それから自分自身の解釈を加えて曲を仕上げる。つまり、通常は視覚で楽譜を読む最初のプロセスを、聴覚で行なっていると考えればよいでしょうか。同じ楽譜から千差万別の表現が生まれるのがクラシック音楽のおもしろいところですが、辻井さんの場合も他人の表現からではなく、楽譜から出発して自分自身の表現を考え抜いていることがよくわかります。
和楽器を楽しむ音楽会
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
年明け最初の放送は「和楽器を楽しむ音楽会」。日本の伝統楽器を用いたAUN J クラシック・オーケストラの演奏をたっぷりとお楽しみいただきました。AUN J クラシック・オーケストラは太鼓、三味線、尺八、篠笛、箏、鳴り物といった和楽器から構成されるユニットです。本来、日本の伝統音楽にはこのような楽器編成でアンサンブルを組むという発想はありません。昔ながらの楽器を用いながら、ジャンルを超えた新しい音楽を作り出そうというのが彼らならではの魅力。こういった自由なチャレンジも、メンバーそれぞれがしっかりとした日本の伝統音楽のバックボーンを背負っているからこそ、説得力を持つのでしょう。
お正月にだれもが耳にする日本の音楽に「春の海」があります。箏と尺八の二重奏で奏でられるこの曲は、BGMなどでも頻繁に用いられていますので、耳にした瞬間に「あ、お正月だ」と感じます。この「春の海」を作曲したのは宮城道雄。作曲は1929年ですので、それほど古い曲ではありません。西洋音楽的な要素を和楽器に持ち込んだ宮城道雄は、「古典を知らない」「西洋の安易な模倣」とたびたび批判されたといいます。「春の海」も当時の音楽関係者には不評で、「傑作とは言えない」「通俗的な曲」といった批評が残っています。それが今や、いかにも日本らしい古典音楽として定着しているのですから、音楽の感じ方、聴かれ方はどんどん変わってくるものだということがわかります。
AUN J クラシック・オーケストラが行っているような新しい和楽器の用い方も、もしかすると時が経つとともに、新たな伝統へと育ってゆくのかもしれません。
それにしても驚いたのは、井上兄弟ふたりの「AUN三味線」。オペラシティの会場がどっと沸きました。「阿吽の呼吸」もここまで来ると神技です!