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3曲でクラシックがわかる音楽会~パガニーニ編

投稿日:2024年10月26日 10:30

 「3曲でクラシックがわかる音楽会」シリーズ、今回は超絶技巧の元祖ともいうべきヴァイオリニスト、パガニーニをとりあげました。難曲を鮮やかに弾き切る服部百音さんには圧倒されるばかり。実に強烈でした。
 パガニーニは1782年、イタリアのジェノヴァに生まれたヴァイオリニストです。従来の常識をくつがえす華麗で斬新な演奏で名声を確立。イタリアのみならずウィーンやドイツ各地、さらにはパリ、ロンドンにも進出して、ヨーロッパ各地に旋風を巻き起こしました。あまりに凄まじいテクニックは「悪魔に魂を売り渡した代償として超絶技巧を手に入れた」と噂されたほど。どの都市に行っても聴衆は熱狂的にパガニーニを迎え入れ、高額なチケットが飛ぶように売れたと言います。
 もちろん、18世紀のことですから、パガニーニ本人の演奏は録音に残っていません。しかし当時の人々の証言は、パガニーニが並外れた天才だったことを伝えています。若きリストはパリでパガニーニの演奏を聴き、その壮絶な演奏に圧倒されて「僕はピアノのパガニーニになる!」と決意したと言います。また、シューベルトは貧乏だったにもかかわらず、大枚をはたいてウィーンでパガニーニの演奏を聴き、「アダージョで天使が歌うのを聴いた」と語っています。つまり、超絶技巧だけではなく、ヴァイオリンを歌わせる能力も卓越していたんですね。
 パガニーニは興行師としての才も長けており、巨万の富を築いたと言います。ただ、それゆえに自作が他人に広まることを嫌い、生前はほとんど楽譜を出版しませんでした。曲が盗まれることを恐れ、ヴァイオリン協奏曲を演奏する際は演奏会ごとにパート譜をオーケストラのメンバーに配り、演奏会が終わるとすぐに回収したという徹底ぶり。そのため、パガニーニのかなりの作品は散逸してしまったと考えられます。私たちは幸運にも後世まで残された楽譜から、その天才性に感嘆するほかありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑦ 日本の伝統楽器を未来に繋げる音楽会

投稿日:2024年10月19日 10:30

 今週は番組60周年記念企画の第7弾といたしまして、新しいスタイルによる日本の伝統楽器の演奏をお楽しみいただきました。伝統楽器から、こんな響きが作り出されるのかという驚きがあったのではないでしょうか。
 最初に演奏されたのは、坂本龍一作曲の「東風 Tong Poo」。一世を風靡したYMOの名曲です。リリースは1978年。シンセサイザーのサウンドがテクノ旋風を巻き起こしました。当時は電子音が醸し出す未来的なイメージと、東洋風の曲調とのギャップが斬新だったのですが、今回はこれを藤原道山さんの尺八、本條秀慈郎さんの三味線、LEOさんの箏で演奏することで、また違った種類のギャップが生まれていたと思います。エキゾチックなような、なじみ深いような不思議なテイストがありましたね。
 藤原道山さんは尺八アンサンブルの風雅竹韻とともに、自作の「東風(こち)」を演奏してくれました。ソロの尺八と尺八アンサンブルの関係は「メインボーカルとバックバンド」のようなものだとか。同じ楽器のみによる合奏であるにもかかわらず、表現はおもいのほか多彩。尺八が重なり合って作り出される音色に温かみを感じました。
 三味線の本條秀慈郎さんはトランペットの松井秀太郎さんと共演。まさか、三味線とトランペットが共演可能だとは。曲はV.アイヤーの「JIVA(ジーバ)」。おふたりの編曲によって、とても現代的な響きが作り出されていました。トランペットの特殊奏法がふんだんに用いられ、とりわけ籐で作ったミュートによるまろやかな音色は印象的です。
 LEOさんは箏でミニマル・ミュージックに挑戦しました。曲はスティーヴ・ライヒのElectric Counterpointの第3楽章。ミニマル・ミュージックの分野における古典的名作といってもよいでしょう。10パート中9パートをあらかじめ多重録音しておき、その音源と共演するというユニークな演奏形態がとられています。オリジナルではエレキギターとエレキベースが使われていましたが、箏で聴いてもまったく違和感がありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラと夢をかなえる音楽会〜夢響2024後編

投稿日:2024年10月12日 10:30

 今週は先週に引き続きまして、オーケストラと共演する夢をかなえる人気企画「夢響」の後編をお届けしました。後編も多数の応募者から選ばれた4名が、田中祐子さん指揮の東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団と共演を果たしました。
 1人目はピアノの久保壮希さん。なんと、登録者数10万人の中学生ユーチューバーで、憧れの人は角野隼人さん。以前、番組で角野さんも演奏したガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」に挑戦してくれました。のびのびと弾いていて、心から演奏を楽しんでいる様子が伝わってきて、すばらしかったですね。聴く人もわくわくするようなガーシュウィンだったと思います。
 バストロンボーンの山田秀二さんは、ザクセのトロンボーン小協奏曲で、まろやかで深みのある音色を聴かせてくれました。音楽の表情も豊かで、大人の味わいがあります。還暦を迎えてもまだまだ成長したいというお話が印象的でした。刺激になった方も多いのでは。
 ヴァイオリンの内田彩稀さんは、わずか7歳にしてオーケストラとの共演を実現。夢はお医者さんと音楽家の二刀流だとか。ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲で、オーケストラと一体になった見事なソロを披露してくれました。物怖じすることなく、堂々と弾く姿は頼もしいかぎり。将来が楽しみですね。
 アルトサクソフォンの中澤夏子さんは、プロのサクソフォン奏者を目指す高校2年生。現代ベルギーの作曲家スウェルツの「クロノス」で、作品の魅力を存分に伝えてくれました。楽曲のダークでモダンなテイストとひりひりするような緊迫感が漂ってきて、聴きごたえ抜群。これからの飛躍を期待しています。
 もっとも心を震わせたひとりに贈られるスペシャルドリーマー賞には、前編で登場した藤田一槻さんが選ばれました。藤田さんの透明感のある声が忘れられません。藤田さん、おめでとうございます!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラと夢をかなえる音楽会〜夢響2024前編

投稿日:2024年10月05日 10:30

 今年も人気企画「夢響」の模様を2週にわたってお届けします。オーケストラと共演するという夢をかなえるのがこの企画。今週はその前編といたしまして、多数の応募者のなかから選ばれた4名が、田中祐子さんの指揮による東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団との共演を果たしました。
 1人目は藤田一槻さん。とてもはきはきした話しぶりで「夢はミュージカル俳優」と語ってくれました。歌とオーケストラの共演で、曲は音楽座ミュージカル「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」より「ドリーム」。のびやかで、澄んだ声がすばらしかったですね。歌に想いが込められていて、言葉の意味がまっすぐに伝わってきます。
 2人目はフルートの小沼ナビラさん。曲はバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」の「角笛の踊り」でした。バルトークは各地で採集した民謡をもとに独自の作風を開拓した作曲家で、この曲もそんな民謡由来の一曲。ナビラさんはオーケストラと一体となって、この曲に込められた土の香りを表現してくれました。フルートの爽快な音色も心に残ります。
 3人目はピアノの黒川奏翔さん。「ポーランドに行ってショパン・コンクールに出てみたい」と力強く将来の夢を語ります。お兄ちゃんとのやりとりが微笑ましかったですよね。曲はシューマンの「子供の情景」より「見知らぬ国」。しっかり指揮とオーケストラとアイコンタクトをとりながら演奏していたのが印象的でした。やさしくて、のびのびとしたシューマンだったと思います。
 4人目はマンドリンの飯田徹さん。一年間の準備を経て、満を持してのチャレンジでした。曲はモンティの「チャールダーシュ」。哀愁を帯びたゆったりした部分と、速いテンポの情熱的な部分のコントラストが鮮やか。味わい深く成熟した「チャールダーシュ」でした。
 次回の後編でも4名の応募者が登場します。どんな夢をかなえてくれるのか、楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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