ミュージカル映画の名作に「シェルブールの雨傘」という作品があります。主演はカトリーヌ・ドヌーブ。といってもミュージカルなので、歌は吹き替えで、ダニエル・リカーリという歌手がうたっています。この作品では会話の部分もすべてが歌になっています。オペラでいうところのレチタティーヴォ(叙唱)みたいなもので、物語がすべて音楽とともに進んでいくのです。
これって、すばらしいなと思うんですよね。セリフではなく、音楽になっているから表現できることがたくさんあると思うのです。ミュージカルであれば、歌うのは自然なこと。だったら音楽番組もぜんぶトークの部分が歌になっていてもおかしくないのでは。そんな発想から生まれたのが、今回の「ミュージカルをミュージカルで説明する音楽会」。番組全編をミュージカル仕立てにして、ミュージカルの魅力をお伝えしました。
もちろん、これはミュージカル界を牽引してきた石丸幹二さんの司会があってこそ。さらに大人気トップスターの井上芳雄さん、注目度ナンバーワンの若手である屋比久知奈さんが加わって、豪華歌手陣の共演が実現しました。曲はいずれもミュージカルの代表的な名曲ばかり。シチュエーション別に、主役の歌として「モーツァルト!」より「僕こそ音楽」、ドラマのある歌として「レ・ミゼラブル」より「オン・マイ・オウン」、駆け引きの歌として「エリザベート」より「闇が広がる」、ロマンスの歌として「ミス・サイゴン」より「世界が終わる夜のように」をお届けしました。締めくくりは「レ・ミゼラブル」より「民衆の歌」。トーク部分には「サウンド・オブ・ミュージック」の「ドレミの歌」を用いました。
井上芳雄さんの明るくリリカルな声、屋比久知奈さんの伸びやかで艶やかな声、石丸幹二さんの輝かしく芯のある声、三者三様の魅力が伝わってくるぜいたくな声の饗宴だったと思います。田中祐子さん指揮東京フィルのサウンドはゴージャス。歌とオーケストラが一体になったときの高揚感は最高です!
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)