今週は2021年ショパン国際ピアノコンクールで第1位を獲得したカナダのピアニスト、ブルース・リウさんをお招きしました。このコンクールでは、第2位に反田恭平さんとアレクサンダー・ガジェヴさん、第3位にマルティン・ガルシア・ガルシアさん、第4位に小林愛実さんが入賞しています。今回ようやく第1位のブルース・リウさんの出演が実現しました。
コンクール後、リウさんはクラシック音楽界における名門レーベルのドイツ・グラモフォンと契約するなど、着実にキャリアを積み上げています。「とても忙しくなって空港・ホテル・コンサート会場の3か所を回っているだけ」というお話から、トップアーティストの暮らしぶりが垣間見えます。とても多趣味であることは以前から耳にしていましたが、マジックにしてもレースにしても想像以上に本格的で驚きました。音楽家として多忙であるがゆえに、音楽以外の事柄にも情熱を注ぐことでバランスをとる必要があるのでしょう。
現在、リウさんが力を入れているレパートリーはチャイコフスキーだとか。これは少し意外な感じもしました。ピアノ協奏曲を別とすると、演奏会でチャイコフスキーのピアノ曲を聴く機会は決して多くありません。リウさんが選んだ曲はピアノ曲集「四季」。忙しい日々を送るなかで、「四季」の各曲を日記のつもりで弾いて、自分の時間を過ごしたといいます。なるほど、この曲集はそんな密やかな時間にぴったりかもしれません。
「四季」を題材に曲を書いた作曲家にはヴィヴァルディやハイドン、グラズノフらがいますが、これらの「四季」が春夏秋冬の4曲からなるのに対して、チャイコフスキーの「四季」は1月から12月までの12曲より構成されます。これは月刊誌で連載の形で各曲が発表されたため。6月の「舟歌」は切なく甘美な曲想が郷愁を誘います。4月は「松雪草」。リウさんのみずみずしい演奏から、春の息吹が伝わってきました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)