今週は番組60周年記念企画第4弾といたしまして、日本のトップ・チェリストたち12人によるアンサンブルをお楽しみいただきました。ロストロポーヴィチ国際チェロ・コンクール優勝者である宮田大さんを筆頭に、近年、日本人チェロ奏者が国際コンクールで次々と上位入賞を果たしています。今回はそんな気鋭のソリストたちに日本を代表するプロ・オーケストラの首席奏者たちが加わって、超豪華メンバーによるアンサンブルが実現しました。
同じ楽器だけでアンサンブルが成立するのは、音域が広いチェロならでは。ご存じの方も多いと思いますが、この分野には「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」という先駆者がいます。1972年にベルリン・フィルのチェロ・セクションのメンバーが集まって、本日も演奏されたクレンゲルの「讃歌」を演奏した際に「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」を名乗ったのが結成のきっかけ。以来、チェロ・アンサンブルの魅力を世界中に広めることになりました。
クレンゲルの「讃歌」は1920年の作品。作曲者ユリウス・クレンゲル(1859~1933)はドイツのチェリストで、チェロのための作品を多数作曲しています。ライプツィヒに生まれ、父親はあのメンデルスゾーンと親交があったとか。クレンゲルは15歳にしてライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のチェロ奏者になったといいますから、卓越した才能の持ち主であったことはまちがいありません。「讃歌」は12人のチェロ奏者のために書かれた作品で、クレンゲル本人と11人の生徒たちでこの曲を演奏し、ベルリン・フィルの首席指揮者アルトゥール・ニキシュの65歳の誕生日を祝ったという逸話があります。
その後、クレンゲルの「讃歌」はいったん忘れ去られてしまいますが、「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」が蘇演したことで注目を集め、現在ではチェロ・アンサンブルの定番曲になっています。今回の放送を通じて、作品の魅力がますます多くの方に伝わったことでしょう。後世にこれほど人気を博すことになるとは、作曲者も想像していなかったにちがいありません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)