もしもクラシックの大作曲家たちが昭和ポップスを協奏曲にアレンジしたら……。そんな発想でお届けしたのが、今回の協奏曲シリーズ第3弾。秋を感じさせる昭和の名曲を、3人の豪華ソリストたちとともに協奏曲のスタイルでお届けいたしました。
第1楽章は、「もしもラフマニノフが山口百恵の『秋桜』を作ったら」?。冒頭でオーボエがラフマニノフの名曲「ヴォカリーズ」を奏でると、そこに独奏チェロが「秋桜」のメロディで重なり合います。次は役割を交代して、独奏チェロが「ヴォカリーズ」を演奏し、オーケストラが「秋桜」を奏でるという趣向。ふたつのメロディが調和して、立体感のある音楽を生み出していました。
カデンツァの部分では、チェロの宮田大さんが渾身のソロを披露してくれました。カデンツァではオーケストラが沈黙し、ソリストがひとりで弾くのが協奏曲のお約束。協奏曲ではこんなふうにソリストの見せ場が用意されています。
第2楽章は「もしもドビュッシーが松田聖子の『風立ちぬ』を作ったら?」。これは意外な組合せでした。ドビュッシーと松田聖子というだけでもびっくりなのですが、まさか独奏楽器が尺八とは! 尺八独奏によるドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」で開始され、柔らかく繊細なハーモニーの移ろいの中で「風立ちぬ」が奏でられました。
第3楽章は「もしもモーツァルトが小泉今日子の『木枯しに抱かれて』を作ったら?」。モーツァルトというと春めいた曲想を連想する人が多いと思います。実際、モーツァルトの作品の大半は長調で書かれており、明るい曲想が多いのですが、一方でわずかな数の短調作品はどれも極め付きの傑作ばかり。ピアノ協奏曲第20番ニ短調やピアノ協奏曲第24番ハ短調、交響曲第40番ト短調、交響曲第25番ト短調など、木枯らしの季節にぴったりの名曲をモチーフに、「木枯しに抱かれて」がモーツァルト風に生まれ変わりました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)