今週は古坂大魔王さんの「ひねりすぎ」シリーズ第4弾、「有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日」をお届けいたしました。大作曲家たちの意外な側面が垣間見えたのではないでしょうか。
モーツァルトの「俺の尻をなめろ」は、おそらく仲間内でのおふざけとして書かれたのでしょう。そこに居合わせた6人の音楽家たちが酔っ払って口々に悪態をついたところ、じゃあ、どうせだったら悪態でカノンを書いてやろうとモーツァルトが思いついたのかもしれません。
もちろん、こんな曲がモーツァルトの生前に出版されるはずがありません。死後に楽譜が出版される際も、偉大なモーツァルトにこんな下品な曲があってはならないと思われたのでしょう、「愉快にやろうね!」という上品な歌詞に差し替えられてしまいました。「俺の尻をなめろ」と「愉快にやろうね!」では大違いです。本来の歌詞が広く知られるようになったのは、20世紀後半になってから。モーツァルトが羽目を外していたのは、この曲に限りません。ガールフレンドに宛てた手紙では下ネタやダジャレを連発しています。
一方、ロッシーニはいかにも愉快な曲を書きそうな作曲家です。ロッシーニはオペラで大ヒットを連発して、大儲けをしたあげく、早々に作曲から引退してグルメの道をまっしぐらに進んだというキャリアの持ち主。道楽をとことん突き詰めるタイプだったんですね。ですから、「2匹の猫の滑稽な二重唱」のような楽しい曲をロッシーニが書いていても不思議はありません。本当は他人の曲だったのですが、みんながロッシーニの作品として納得してしまったわけです。
ベートーヴェンの「お願いです、変ホ長調の音階を書いてください」もおかしな曲でした。これも仲間内のジョークのような曲だと思いますが、きっとその場にいた人間だけにわかる笑いの要素があったのではないでしょうか。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)