「オペラって気になるんだけど、初心者にはハードルが高い」。そんなふうに感じている方も少なくないでしょう。今週は「オペラがわかる音楽会」。オペラの聴きどころとなるアリアや重唱、前奏曲(序曲)の魅力をお伝えいたしました。
「誰も寝てはならぬ」や「オンブラ・マイ・フ」といった名曲がまさしく好例ですが、オペラにはしばしばその作曲家のもっとも人気の高い名曲が登場します。過去の大作曲家たちは才能の限りを尽くしてオペラに挑戦してきました。なにしろクラシック音楽の世界では、作曲家が経済的成功を手にするためにはオペラのヒット作を生み出すことが不可欠と言ってもいいほど。「オペラはハリウッド映画以前の最大のエンタテインメント」という言い方がありますが、録音再生技術のない時代にあって、劇場に有名歌手たちが集ってオーケストラと共演するという出し物は一大スペクタクルであり、一大娯楽産業でもあったのです。
大作曲家たちが傑作オペラを多数残してくれたおかげで、現代の私たちもすばらしい名作を味わうことができます。本日最後に三重唱をお聴きいただいたリヒャルト・シュトラウス作曲の「ばらの騎士」は、20世紀が生んだオペラの最大のヒット作といえるでしょう。この三重唱は大詰めの名場面で歌われます。繊細で陰影に富んだハーモニーは、これだけを単独で聴いても十分にすばらしいものですが、全幕をストーリーを追いながら聴けばいっそう感動が深まります。
もし、本日の演奏に感動したけれど生のオペラは未体験だという方がいらっしゃるようでしたら、ぜひ劇場で本物の舞台を体験することをおすすめします。ありがたいことに、現代では何語のオペラであっても字幕が付くことがほとんど。よく知らない作品でもストーリーはわかります。その作曲家の音楽が好きであれば、初めてであっても尻込みする必要はありません。マイクを使わない生の歌唱がもたらす感動は格別です!
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オペラがわかる音楽会
劇場支配人の音楽会
名音楽家あるところに名プロデューサーあり。才人にはしばしばその真価を見抜いて世に知らしめてくれるパートナーがそばにいるもの。今週は「劇場支配人の音楽会」。新たに司会に就任した石丸幹二さんが、これからの番組で魅力あふれる作品やアーティストを見出していきたいという思いを込めて、初回はこのテーマでお送りいたしました。
歴史に名を残した芸術プロデューサーとして、まっさきに名前が挙がるのがディアギレフでしょう。ディアギレフが主宰したロシア・バレエ団(バレエ・リュス)は当代随一の画家や音楽家も巻き込みながら、パリで大成功を収めました。ディアギレフはサンクトペテルブルクで演奏されたストラヴィンスキーの最初期の小作品「花火」「幻想的スケルツォ」を聴いて感銘を受け、彼にロシア民話の火の鳥の題材とした大規模なバレエ音楽を書くように依頼します。「火の鳥」作曲時のストラヴィンスキーは28歳。この若者がその後20世紀音楽の中心的人物として次々と傑作を残すことになったわけです。まさしく慧眼ですね。
あのザルツブルク音楽祭の設立にもかかわったマックス・ラインハルトも名プロデューサーのひとり。ヨーロッパで早熟の天才として知られていたコルンゴルトをハリウッドに招き入れました。
コルンゴルトは近年、再評価が進んでいる作曲家です。オペラ「死の都」が2014年に新国立劇場で上演されて話題を呼んだのは記憶に新しいところ。また、番組で小林美樹さんがすばらしいソロを披露してくれたヴァイオリン協奏曲は、この10年ほどの間に演奏頻度がぐっと高まってきているように感じます。別の言い方をすれば、この曲をレパートリーとするヴァイオリニストが増えてきたといえるでしょうか。
今回は第3楽章が演奏されましたが、機会があればぜひ全曲を聴いてみてください。むせかえるような濃密なロマンとみずみずしいポエジーにあふれた大傑作だと思います。
指揮者のわがまま音楽会
指揮者のわがままって、いったいなんだろう……と思ったら、こういうことだったんですね。ノーリハーサルでの本番、楽団員の暗譜演奏、バラバラの楽器配置、楽団員が歌って演奏。どれも実際のコンサートではまずありえないようなことばかり。でも指揮者の山田和樹さんのお話を聞くと、音楽的な狙いがあってのことと知って納得しました。
ノーリハーサルで演奏してくれたのはプロコフィエフの「古典交響曲」の第3楽章。自在にテンポを動かしながら、強弱の表現もはっきりと付けた演奏でした。リハーサルがなくても、指揮のテクニックだけでこれだけ音楽を作ることができるとは。リハーサル嫌いの歴史的大指揮者クナッパーツブッシュも、こんなふうに指揮をしていたのでしょうか。
楽団員の暗譜演奏にもびっくりしました。指揮者で暗譜をする方は決して珍しくはありませんが、楽団員が暗譜で演奏する姿を見たのは初めて。譜面台がないと、ずいぶんオーケストラの景色が違って見えます。なにかさっぱりした感じ、とでもいいましょうか。暗譜のおかげなのでしょう、すこぶる精彩に富んだ「フィガロの結婚」序曲を聴くことができました。19世紀の名指揮者ハンス・フォン・ビューローが楽団員に暗譜を求めたのは、こんなスリリングな演奏を実現したかったからなのかもしれません。
いちばん予測が付かなかったのは、楽器のバラバラ配置。近年、一般的なストコフスキ式の楽器配置を見直して、それ以前のヴァイオリンを両翼に分ける対向配置を復活させようというトレンドが一部にあるのですが、山田さんのアイディアはもっと過激で、楽器ごとにグループを作らないという自由配置でした。さすがに楽器間の音のバランスは保てなくなってしまいますが、普段とは違った響きが生まれてくるのがおもしろかったです。オーケストラは集団である以前に、ひとりひとりのプレーヤーたちの集まりなんだな、ということも改めて感じました。