今週は「協奏曲の音楽会」。反田恭平さんと五嶋龍さんのソロと、アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィルハーモニー交響楽団が共演するという豪華な組合せが実現しました。聴きごたえがありましたよね。
現在大ブレイク中の反田恭平さんが弾いたのは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番より第1楽章。フィギュアスケートやテレビドラマなどでも使用される人気曲で、おそらく今コンサートでもっとも演奏機会の多い協奏曲ではないでしょうか。自身が大ピアニストでもあったラフマニノフの作品だけに、高度で華麗な技巧が要求される作品です。反田さんはイタリアでこの協奏曲をバッティストーニ指揮でレコーディングしたばかり。オーケストラは異なりますが、ピアノと指揮が息の合ったところを聴かせてくれました。
五嶋龍さんが演奏したのはプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番より第1楽章。こちらは今春、龍さんがヤニック・ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団との来日公演で演奏して好評を博したのが記憶に新しいところ。アイロニーやユーモア、リリシズムが渾然一体となったプロコフィエフの魅力がひしひしと伝わってきました。
ラフマニノフもプロコフィエフもどちらもロシア生まれの作曲家です。ともに祖国を離れて活躍しましたが、両者がたどった運命は対照的です。
ロシア革命直後に身一つで祖国を離れ、1918年からアメリカに定住し、その後二度と祖国の土を踏むことがなかったラフマニノフ。彼にとって創作の源泉はロシアの大地。アメリカ移住後はめっきり作品が少なくなってしまいます。
一方、プロコフィエフはやはり革命後にアメリカに亡命し、さらにパリに移り住みますが、1936年に成功を求めてソ連に帰国を果たします。帰国後も作品は書かれたものの、他のソ連の作曲家たちと同様にスターリン政権下の文化統制により、創作活動は制約されてしまいました。奇しくもスターリンと同じ日に世を去ったため、プロコフィエフの訃報はひっそりと伝えられたのみだったといいます。
ふたりの作品を並べて聴くと、どちらの決断が正しかったのかと、つい考えてしまいます。
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協奏曲の音楽会
天才モーツァルトの音楽会
モーツァルトほど「天才」という言葉がふさわしい作曲家はいないのではないでしょうか。一見すると、とてもシンプルな音楽なのに、ほかの作曲家にはない独特の魅力が宿っています。革新的な音楽語法を発明したとか、新しいジャンルを開拓したとか、そういった新規性でモーツァルトのすごさを伝えようとしても、なかなかうまくいきません。特別なことをやっているようには見えないのに、出来上がったものは天衣無縫の音楽になっている。これぞ天才の証でしょう。
今回はモーツァルトの作品のなかでも、短調で書かれている名曲に焦点を当てて、その天才性がどんなところにあるのか、指揮者の沼尻竜典さんにピアノ・ソナタ第8番イ短調をピアノで弾きながら、解説していただきました。「なるほど!」と思うようなポイントがいくつもありましたよね。
モーツァルトについて、龍さんが「喜びと悲しみの境目がない」、反田恭平さんが「陽と陰を併せ持った天才」とおっしゃっていたのも印象的でした。モーツァルトはしばしば短調と長調の境目を自在に行き来します。光のなかに影があり、影のなかに光がある。そんな微妙な陰影が、情感の豊かさを生み出しているのでしょう。
ピアノ協奏曲第20番ニ短調では、反田恭平さんが独奏を務めてくれました。この時代に書かれたピアノ協奏曲には「カデンツァ」という、独奏者がソロで自由な即興演奏を披露する聴かせどころが用意されています。ここは演奏者にお任せする部分ですので、モーツァルト本人はこの曲のカデンツァを書き残していません。幸いなことにベートーヴェンがこの曲のためのカデンツァを残していますので、多くのピアニストはベートーヴェン作のカデンツァを使用します。
しかし、この日、反田さんが演奏したのは聴き慣れないカデンツァでした。第2楽章の主題が引用されるという一風変わったカデンツァは、イタリアの往年の大ピアニスト、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリが古い録音で弾いていた演奏に触発されたもの。この曲を聴き慣れた人にも、新鮮な感動があったのではないでしょうか。
いま音楽業界が注目する4人の音楽家たち
今週は「いま音楽業界が注目する4人の音楽家たち」。ピアノの反田恭平さん、辻井伸行さん、ヴァイオリンの成田達輝さん、クラリネットの吉田誠さん、いずれも音楽専門誌や音楽業界関係者の間で実力が認められた気鋭の奏者たちです。
反田恭平さんは昨年夏にデビューアルバムをリリースして以来、大きな話題を呼んでいます。今年1月にはサントリーホールでデビュー・リサイタルを開くという快挙を成し遂げました。新人ピアニストが2000席クラスの大ホールでデビュー・リサイタルを開くのは異例中の異例。しかもチケットは完売。番組では得意のリストの作品から「タランテラ」を弾いてくれましたが、今の反田さんの勢いが伝わってくるような生き生きとした演奏でした。
辻井伸行さんがヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで優勝を果たしたのは2009年のこと。もう7年も前のことになるんですね。以後、世界的巨匠ゲルギエフやアシュケナージと共演するなど、着実にキャリアを築いています。「悲愴」ソナタの第2楽章、名演でした。以前放送したピアノ協奏曲第5番「皇帝」もそうでしたが、辻井さんのベートーヴェンは風格があって、聴きごたえがあります。
ヴァイオリンの成田達輝さんはぜひこれから長く聴き続けたいアーティストです。最近、成田さんにインタビューをする機会があったのですが、音楽に対して真摯な姿勢をお持ちで、技術の高さはもちろんのこと、表現という点でも突きつめられた演奏を聴かせてくれる人だと思います。
クラリネットの吉田誠さんも楽しみな大器です。クラリネット奏者として際立った活躍をくりひろげる一方で、指揮も学んでいるという異色の奏者。今後どんな領域に活動の場を広げていくのでしょうか。
楽しみな才能が次々と登場する日本の音楽界。俊英たちから目が離せません。
特殊筋肉と音楽家たち
今回の「題名のない音楽会」は「特殊筋肉と音楽家たち」。番組タイトルを見て「特殊筋肉」ってなんのことだろうと思った方も多かったのでは。
ピアニストの反田恭平さんが見せてくれた、ラフマニノフ筋、ショパン筋、ベートーヴェン筋……。これは反田さんの命名で、本当にそんな名前の筋肉があるわけではありませんが、音楽家にはアスリートのような一面があることに気づかされました。
反田さんが弾いてくれた、ビゼー作曲、ホロヴィッツ編曲の「カルメン幻想曲」、すさまじかったですよね。華麗なテクニックが存分に発揮されていました。編曲者のホロヴィッツは、20世紀を代表する伝説的な大ピアニストです。しばしばリサイタルのアンコールでこの曲を披露して、聴衆を熱狂させました。ビゼーのオペラ「カルメン」に登場する親しみやすいメロディが、超絶技巧によってこれでもかというくらい華やかに変奏されています。
実は反田さんが弾いていたピアノは、そのホロヴィッツが愛用していたというニューヨーク・スタインウェイの名器。ホロヴィッツは独特のきらびやかなタッチを実現するために、楽器には強いこだわりを持っていました。ホロヴィッツのピアノの鍵盤は非常に軽かったことで知られています。軽いということは、わずかなタッチの差に敏感に反応してしまい、それだけコントロールが難しいということ。反田さんは精妙なタッチでホロヴィッツのピアノを操り、ホロヴィッツその人を思わせるような輝かしい音色を生み出していました。
上野耕平さんが見せてくれた「循環呼吸」にも驚きました。ストローとコップで実演してくれましたが、その気になればいつまででも息を吐き続けることができそうな余裕っぷり。頬にためた空気を出すのと同時に、鼻から空気を吸い込むんだそうですが、試しにストローとコップでやってみても、どうにもできそうにありません。
五嶋龍さん、循環呼吸が少しできていましたよね? これにもびっくり。ヴァイオリニストなのに、いったいいつ練習したんでしょう……。