今週は先週に続いて番組60周年記念企画第2弾といたしまして、「ボーダーレス」をテーマにピアニストの藤田真央さんと宇宙飛行士の野口聡一さんの対談をお送りいたしました。これから目指す道や人生観などについて、興味深いお話がいくつもあったと思います。
藤田さんの言葉でとりわけ印象的だったのは、コンクールとのかかわり方。「いい意味でも悪い意味でも、典型的な演奏をしなければコンクールでは賞を獲れない」というお話がありました。中立的な採点が求められるコンクールの場では、どうしてもそうなってしまうのでしょう。しかし、藤田さんは20歳でチャイコフスキー国際コンクールの第2位を獲得しましたので、早い段階から今までになかった解釈での演奏にも取り組むことができるようになったと言います。「1小節1音ずつ考えることがいちばん重要」と語っていたように、真摯に楽譜に向き合う藤田さんの姿勢が、コンクール後の輝かしいキャリアの原動力になっているにちがいありません。
野口さんのお話では宇宙飛行士ならではの「ボーダーレス」への視点がおもしろかったですよね。国ではなく大陸で人種を見るようになりアジア人としての自分を意識するようになったと言います。やがて人類が他の星に行くと、「地球人っぽい」という感覚が生まれるかもしれないという指摘には夢を感じました。
藤田さんが演奏してくれたのは、セヴラック作曲の「セルダーニャ~5つの絵画的練習曲」より第2番「祭り(ピュイセルダの思い出)」。セヴラックはフランスの作曲家ですが、パリを中心とする楽壇からは距離をとり、生涯の大半を南フランスで過ごしました。南仏の土地に根差したローカル色豊かな作風が特徴とされています。セヴラックはスペインの作曲家アルベニスに師事し、両者は深い友情で結ばれていました。楽譜中でアルベニスとその娘について言及されるのは、そんなふたりの作曲家の結びつきがあったからなんですね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)