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「60周年記念企画②夢の対談が実現した音楽会」後編

投稿日:2024年05月18日 10:30

 今週は先週に続いて番組60周年記念企画第2弾といたしまして、「ボーダーレス」をテーマにピアニストの藤田真央さんと宇宙飛行士の野口聡一さんの対談をお送りいたしました。これから目指す道や人生観などについて、興味深いお話がいくつもあったと思います。
 藤田さんの言葉でとりわけ印象的だったのは、コンクールとのかかわり方。「いい意味でも悪い意味でも、典型的な演奏をしなければコンクールでは賞を獲れない」というお話がありました。中立的な採点が求められるコンクールの場では、どうしてもそうなってしまうのでしょう。しかし、藤田さんは20歳でチャイコフスキー国際コンクールの第2位を獲得しましたので、早い段階から今までになかった解釈での演奏にも取り組むことができるようになったと言います。「1小節1音ずつ考えることがいちばん重要」と語っていたように、真摯に楽譜に向き合う藤田さんの姿勢が、コンクール後の輝かしいキャリアの原動力になっているにちがいありません。
 野口さんのお話では宇宙飛行士ならではの「ボーダーレス」への視点がおもしろかったですよね。国ではなく大陸で人種を見るようになりアジア人としての自分を意識するようになったと言います。やがて人類が他の星に行くと、「地球人っぽい」という感覚が生まれるかもしれないという指摘には夢を感じました。
 藤田さんが演奏してくれたのは、セヴラック作曲の「セルダーニャ~5つの絵画的練習曲」より第2番「祭り(ピュイセルダの思い出)」。セヴラックはフランスの作曲家ですが、パリを中心とする楽壇からは距離をとり、生涯の大半を南フランスで過ごしました。南仏の土地に根差したローカル色豊かな作風が特徴とされています。セヴラックはスペインの作曲家アルベニスに師事し、両者は深い友情で結ばれていました。楽譜中でアルベニスとその娘について言及されるのは、そんなふたりの作曲家の結びつきがあったからなんですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画②夢の対談が実現した音楽会〜前編

投稿日:2024年05月11日 10:30

 今週は番組60周年記念企画の第2弾といたしまして、ボーダーレスをテーマにピアニストの藤田真央さんと宇宙飛行士の野口聡一さんによる対談をお送りいたしました。国境を超えて世界中で活躍する藤田さんと、地球を飛び出し、日本人として宇宙でもっとも長い滞在時間を過ごした野口さん。まさにボーダーレスなおふたりです。
 5年前、モスクワで開催されたチャイコフスキー国際コンクールで藤田さんが第2位を獲得した際に、プライベートで会場を訪れていたという野口さん。本当に音楽が大好きな様子が対談から伝わってきました。宇宙飛行士から見たホルストの組曲「惑星」のお話がおもしろかったですよね。ホルストの作品では「火星」が激しく闘争的な曲調で、「木星」が穏やかで優しい曲調で描かれていますが、実際の惑星の姿はむしろ逆だと言います。たしかに火星の地表の写真を思い出してみると、砂漠のような荒れ地が広がるばかりで、静かな印象がありました。なにしろホルストがこの曲を書いたのは1916年のことですから、惑星が現実の姿よりも占星術的なイメージにもとづいて描かれるのは自然なことでしょう。
 藤田さんが演奏してくれた一曲目は、野平一郎作曲による「音の旅」より「舞踏会にて」。野平一郎さんは現在の日本を代表する作曲家のひとりです。パリ国立高等音楽院に学び、現代音楽の世界で国際的な活動をくりひろげています。そんな野平さんが、こどものためのピアノ曲集として作曲したのが「音の旅」。藤田さんが楽しそうに演奏している姿が印象的でした。
 二曲目はシューマンの大傑作、「クライスレリアーナ」の第5曲。曲名はE.T.A.ホフマンの著作に登場する「楽長クライスラー」に由来し、シューマンはこの架空の人物に結婚問題で苦しむ自分自身の姿を重ね合わせていました。
 最後の曲は藤田さん得意のモーツアルト。隅々まで生気にあふれた演奏で、ずっと聴いていたくなります。まさに「天衣無縫」という言葉がぴったりですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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未来への扉!ニュースターの音楽会2024

投稿日:2024年05月04日 10:30

 今週は注目の若手音楽家をいち早くご紹介するシリーズ企画の第2弾。ヴァイオリニストの東亮汰さんとトランぺッターの児玉隼人さんをゲストにお招きしました。
 東亮汰さんは現在24歳。2019年の第88回日本音楽コンクールで第1位を獲得しました。昨年、メジャー・デビューとなるアルバム「Piacere~ヴァイオリン小品集」をリリース。アニメ「青のオーケストラ」で主人公のヴァイオリンの吹き替えを担当したことでも話題を呼びました。
 東さんによるラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」第18変奏は情感豊か。原曲はピアノ曲ですが、ヴァイオリンで聴いても、やはりすばらしいですね。ブラームスのヴァイオリン協奏曲は日本音楽コンクールで第1位を獲得した際の演奏曲。気迫のこもったソロでオーケストラとともに雄大な音楽を紡ぎ出します。つややかで輝かしいヴァイオリンの音色も印象に残りました。
 極度のあがり症という東さんの秘策は、「本番前に全力ダッシュして心拍数を上げる」。いったん上げてしまえば、あとは自然に下がるだけという逆転の発想です。機会があったら試してみてもいいかも?
 児玉隼人さんは14歳のトランペッター。なんと小6で初のソロ・リサイタルを開き、オーケストラとの共演は10回を超えるというのですから驚きです。故郷の釧路で世界的トランぺッターのアンドレ・アンリが演奏会を開いた際に、楽屋を訪れて演奏を聴いてもらったことが運命の出会いとなりました。特定の先生につかず、ふだんはYouTubeを参考にして練習をしているというお話にもびっくりしました。
 久石譲作曲「天空の城ラピュタ」の「ハトと少年」では爽快な音色を堪能させてくれました。フンメルのトランペット協奏曲はトランペット奏者には欠かせないレパートリー。テクニックを要求される曲ですが、児玉さんの演奏はすこぶる軽快。晴れ晴れとした気分にしてくれます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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温泉地で生まれたクラシック名曲の音楽会

投稿日:2024年04月27日 10:30

 今週は温泉地で生まれたクラシックの名曲をお届けしました。温泉と聞くと、日本の温泉街のイメージが強いのですが、ヨーロッパにも温泉保養地がたくさんあるんですね。これらの温泉の多くは、上流階級の人々や文化人が長期滞在する社交場として発展してきました。モーツァルトが残した手紙には、奥さんのコンスタンツェが湯治に出かけていてたくさん費用がかかって大変だといった記述が残されています。
 ヘンデルやベートーヴェンが好んだ温泉地を実際に体験してきたのが、ピアニストで指揮者の大井駿さん。温泉地から生まれた4曲を演奏してもらいましたが、気のせいでしょうか、どの曲もとても心地よく、体がリラックスできたように感じられます。
 ヘンデルがドイツのアーヘンで療養した直後に作曲したのは歌劇「セルセ」。このオペラのなかでもっとも広く知られている曲が「オンブラ・マイ・フ」(懐かしい木陰よ)です。テレビCMなど、いろいろな機会で耳にする名曲です。高野百合絵さんの伸びやかで温かみのある声に癒されました。
 ベートーヴェンも好んで温泉地に滞在した作曲家です。保養地バーデン・バイ・ウィーンに滞在して作曲したのが、後期の大傑作、弦楽四重奏曲第13番。今回は第5楽章の「カヴァティーナ」をほのカルテットのみなさんに演奏していただきました。ほのカルテットは昨年、室内楽の国際的な登竜門として知られる大阪国際室内楽コンクールで第2位を獲得して注目を浴びています。気鋭のカルテットによる入魂の演奏でした。
 ショパンのマズルカ作品67-1はチェコの温泉地カルロヴィ・ヴァリで書かれた作品。故郷を離れてパリで暮らしたショパンは、ここで両親と久々の再会を果たしました。
 プッチーニが通った温泉はイタリアのモンテカティーニ・テルメ。ここでオペラ「ラ・ボエーム」の一部が作曲されたといいます。「ラ・ボエーム」では貧しい若者たちの悲恋が描かれていますが、プッチーニはずいぶんリッチな環境で曲を書いてたんですね……。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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3曲でクラシックがわかる音楽会〜ショパン編〜

投稿日:2024年04月20日 10:30

 今週は「3曲でクラシックがわかる音楽会」シリーズの第2弾。第1弾のモーツァルト編に続いて、ショパン編をお届けしました。ゲストの伊集院光さんもおっしゃるように、ショパンといえばピアノ。ショパンはよく「ピアノの詩人」と呼ばれますが、作品の大半がピアノ曲である点で、大作曲家たちのなかでも異彩を放っています。ショパン国際ピアノ・コンクールで第4位を獲得した小林愛実さんが、ショパンが「ピアノの詩人」と呼ばれるゆえんを解説しながら、3曲を演奏してくれました。
 一曲目はノクターン第20番(遺作)。作曲者の死後に出版されたので「遺作」と記されていますが、若き日に書かれた作品です。小林さんは装飾音の使い方に、ショパンの「ピアノの詩人」らしさを感じるといいます。比較のために、もしも装飾音がなかったらどうなるかを演奏してくれましたが、たしかに音楽のキャラクターがまったく違ってきます。繊細な感情表現のために装飾音が欠かせないことがよくわかりますよね。
 二曲目は「24の前奏曲」から第17番。ここでの注目点は和声。和声の複雑化がメロディの厚みをもたらしていると言います。メロディを内側で支える内声の大切さが説明されていましたが、こういったお話を聴くと、ふだんよりも左手に注目して曲を聴こうという気持ちになります。メロディと内声の絡み合いがニュアンスに富んだ表現を生み出していました。
 三曲目は晩年の傑作、「幻想ポロネーズ」。一曲目にあった装飾音の要素と二曲目にあった複雑な和声の両方がきわめられた集大成的な作品として、この曲が選ばれました。テロップで解説されていたように、小林さんはこの曲を、ショパンが人生を振り返る曲として解釈しています。ノスタルジーを喚起する曲想ですが、その向こう側に大きなドラマがあることが演奏からも伝わってきたのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画①角野隼斗「ラプソディ・イン・ブルー」の音楽会

投稿日:2024年04月13日 10:30

 「題名のない音楽会」は今年放送60周年を迎えます。60周年を記念したシリーズ企画のキーワードは「ボーダーレス」。今週はその第1弾として、ボーダーレスな活動を展開する角野隼斗さんをお招きしました。
 角野さんといえば、先日、ソニークラシカルとワールドワイド契約を結んだと発表されて、大きな話題を呼びました。これは日本人演奏家としては五嶋みどりさん、樫本大進さん、藤田真央さんに続く4人目の快挙。秋にワールドワイド・デビューアルバムをリリースするということですので、角野さんに対する国際的な注目が一段と高まることはまちがいありません。
 そんな角野さんが選んだ曲は、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」。これぞボーダーレスな名曲です。大ヒット曲「スワニー」によって人気ソングライターとして世を席巻したガーシュウィンですが、1924年に開かれた「アメリカ音楽の実験」と題されたコンサートで「ラプソディ・イン・ブルー」を発表すると、クラシック音楽界からも注目を集めます。この曲は「ジャズ風協奏曲」を書いてほしいという依頼から生まれ、当初はジャズ・バンドによって演奏されていたのですが、後にオーケストラ用にアレンジされて、クラシックの名曲の仲間入りを果たしました。しばしば「シンフォニック・ジャズ」の代表曲に挙げられるように、ジャズとクラシックの垣根を越えた最大の成功作のひとつと言ってもよいでしょう。初演から100年を迎えた今も、その新鮮さは失われていません。
 今回の演奏では、角野さんが「弾き振り」に挑戦してくれました。ピアノとオーケストラが向き合って、音の対話をくりひろげる様子は実にスリリング。即興を随所に差しはさんで、角野さんならではの冒険心と遊び心にあふれた「ラプソディ・イン・ブルー」が誕生しました。本当にカッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第4弾〜後編

投稿日:2024年04月06日 10:30

 今週は先週に引き続いて、葉加瀬太郎さんによる人気企画「題名プロ塾」第4弾後編をお送りしました。最終レッスンに進んだ渥美結佳子さん、成宮千琴さん、新美麻奈さんの3名が、「ボーカリストとのデュエット」に挑みました。課題曲は映画「リトル・マーメイド」より「パート・オブ・ユア・ワールド」。豊原江理佳さんのボーカルとの共演です。
 クラシックのヴァイオリンを学ぶみなさんにとって、ボーカルとの共演は新鮮な体験だったのではないかと思います。葉加瀬太郎さんのチェックポイントは「歌手を引き立てるオブリガート」と「自分が映えるオブリガート」の弾きわけ。オブリガート(助奏)とは、ここではメロディを引き立てる対旋律のことを指しています。
 最初に演奏したのは渥美結佳子さん。さわやかな演奏を披露してくれましたが、葉加瀬さんのアドバイスは「ずっと弾き続けるのではなく、弾かないところがあっていい」。休むところは休み、主役になったときはもっと目立ってよいと言います。アドバイス後の演奏は、ぐっと対話性が豊かになったように思います。
 2番手に登場した成宮千琴さんは、インパクト抜群。イントロ部分もカッコよかったですし、ボーカルが入った後も華麗な演奏で盛り上げてくれました。デュエットとしては饒舌かもしれませんが、よく練られていたと思います。まるでオペラの白熱する二重唱を聴いているかのよう。
 最後に演奏したのは新美麻奈さん。キリリとした端正なソロで、バランスよくボーカルに寄り添っていました。葉加瀬さんは新美さんの演奏にケルト音楽的なイメージを感じたと言います。素朴な民族音楽風のテイストを加えることで、一段と豊かな味わいが引き出されました。
 三者三様の魅力がありましたが、選考の結果、選ばれたのは新美さん! 音楽的な引き出しの多さが評価されました。番組でのデビューが楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第4弾〜前編

投稿日:2024年03月30日 10:30

 今週は葉加瀬太郎さんによる大人気企画「題名プロ塾」第4弾の前編をお送りしました。最終レッスンで選ばれた塾生1名は番組からのデビューが約束されているこの企画、これまでにも林周雅さん、堀内優里さん、ミッシェル藍さんの3名が合格して、現在活躍をくりひろげています。
 前編となる今回は、クラシックの名曲を原曲としたそれぞれジャンルの異なるポップスを5人の塾生のみなさんに演奏していただきました。クラシックとはまた違った演奏スタイルが求められることが、葉加瀬さんのアドバイスからよく伝わってきましたよね。
 渥美結佳子さんが演奏したのはロック版「ペール・ギュント」。原曲はグリーグ作曲の「ペール・ギュント」の「山の魔王の宮殿にて」です。渥美さんの鮮やかな演奏が、葉加瀬さんのアドバイスによって、一段と大きく羽ばたいたように感じました。
 ディキシーランド・ジャズ版「威風堂々」を演奏したのは成宮千琴さん。原曲はエルガーの代表作です。葉加瀬さんのアドバイスでメンバー全員と向き合って演奏することで、ぐっと対話性の豊かな演奏になりました。
 カントリー版「カルメン」を演奏したのは田中杏佳さん。歯切れのよい軽快な演奏でしたが、葉加瀬さんが求めたのはテヌートを基本とした演奏。ムードが一変して、リラックスしたテイストが生まれました。
 モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」はしっとりしたバラード版で。新美麻奈さんの演奏は深みのある豊かな音色が印象的でした。休符の扱いを大切にして、歌うように弾くという葉加瀬さんのアドバイスで、さらに味わいが増しました。
 スウィング・ジャズ版「白鳥の湖」を演奏したのは木村元美さん。葉加瀬さんの弓を弦から離さないで休符を表現するというアドバイスで、音楽の推進力が増しました。
 最終レッスンに進んだのは渥美結佳子さん、成宮千琴さん、新美麻奈さんの3名。はたしてだれが選ばれるのか、次回が楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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もうすぐ60周年!私の音楽人生に影響を与えた名演の音楽会 後編

投稿日:2024年03月23日 10:30

 この4月で60周年を迎える「題名のない音楽会」。前回に引き続き、第一線で活躍する音楽家たちのみなさんに番組の思い出と、もう一度見たい名演について語ってもらいました。
 葉加瀬太郎さんがもう一度見たい名演に挙げたのは、少年時代の憧れの存在だったという坂本龍一さんの出演回。1984年放送の黛敏郎さんとの対話シーンがありましたが、当時坂本龍一さんは32歳の若さ。YMOの散開直後でした(当時、YMOはグループの「解散」と呼ばずに、あえて「散開」という言葉を使っていました)。東京藝術大学大学院修了作品の「反復と旋」が演奏されていましたが、いわゆる「現代音楽」と呼ばれるモダンな書法が用いられていたのが印象的です。
 角野隼斗さんが挙げたのは、久石譲さんが新日本フィルを指揮したジョン・アダムズの「ロラパルーザ」。ジョン・アダムズは現代アメリカの作曲家で、ポスト・ミニマルミュージックと呼ばれる反復的なスタイルを特徴としています。オーケストレーションも巧みで、その主要作品はベルリン・フィルをはじめ世界中のオーケストラによって演奏されています。現代の作品ですが、おそらく今後レパートリーとして定着して、新たな「クラシック音楽」になることでしょう。
 廣津留すみれさんがもう一度見たい名演に挙げたのは、デイヴィッド・ギャレットの「熊蜂の飛行」。カッコよかったですよね。デイヴィッド・ギャレットは一世を風靡したヴァイオリン界のスーパースター。ロックスターのような風貌でありながら、鮮やかなヴァイオリンのテクニックで聴く人を魅了します。
 山田和樹さんは、山本直純さんの指揮台の高さを変える実験企画を、子どもながらにおもしろいと思ったと言います。そんな実験精神が引き継がれたのが、2016年放送の「指揮者のわがまま音楽会」。山田さんはオーケストラの配置をばらばらにしてプロコフィエフの「古典交響曲」を指揮してくれました。既存の常識を疑う姿勢は、クラシック音楽の世界でも大切なことなのかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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もうすぐ60周年!私の音楽人生に影響を与えた名演の音楽会 前編

投稿日:2024年03月16日 10:30

 「題名のない音楽会」はこの4月で60周年を迎えます。今回と次回にわたり、第一線で活躍する音楽家たちのみなさんをお招きして、番組の思い出ともう一度見たい名演について語ってもらいました。
 高嶋ちさ子さんは2001年の「期待の若き音楽家たち」に初出演して以来、48回にわたって出演。これまでに高嶋さんならではの楽しい企画がたくさんありました。高嶋さんがもう一度見たい名演として挙げたのが、2018年放送の2CELLOS「スムーズ・クリミナル」。2CELLOSはYouTubeをきっかけに一世を風靡したデュオです。チェロのデュオでこんなにカッコいい音楽ができるのかという新鮮な驚きがありました。
 反田恭平さんは子どもの頃から番組を見て、視聴者参加企画に出演し、大人になってピアニストとして番組に帰ってきました。こんなことがあるんですね。反田さんが思い出に残る回として挙げてくれたのは、青島広志さんがハイドンに扮して大活躍をする回。交響曲第94番「驚愕」第2楽章にある聴衆をびっくりさせる仕掛けが解説されていました。ジョーク好きのハイドンにふさわしい楽しい趣向でした。
 作曲家の服部隆之さんのお話で印象的だったのは、番組はオーケストラの指揮を学ぶ貴重な機会だったということ。だれよりも作品を熟知している作曲家が自作を指揮をするのはごく自然なことですが、一方で作曲家も経験を積まなければ十分な指揮ができないことに気づかされます。服部さんが挙げた名演は、2007年放送のミシェル・ルグランと羽田健太郎の共演による「シェルブールの雨傘」。演奏中の羽田さんの至福に満ちた表情と高揚感あふれる音楽がすばらしいかったですよね。
 箏奏者のLEOさんのもう一度見たい名演は、現代邦楽の第一人者として箏の世界を切り拓いた沢井忠夫の箏と歌(!)による「ラブ・ミー・テンダー」。こんな映像があったとは。びっくりしました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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