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川を感じるクラシック名曲の音楽会

投稿日:2024年05月25日 10:30

 今週は大井駿さん指揮による東京フィルの演奏で、川にまつわる名曲をお届けしました。大井さんによれば、当時のヨーロッパの人々にとって川は身近な存在で、飲料水を得るための生命線でもあったと言います。そのためか、クラシック音楽の名曲には川を題材にした曲が少なくありません。今回演奏されたベートーヴェンの「田園」とスメタナの「モルダウ」以外にも、ヨハン・シュトラウス2世の「美しく青きドナウ」やシューマンの交響曲第3番「ライン」、シューベルトの「冬の旅」や「ます」等々。
 ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」で描かれるのは自然の光景。第2楽章は「小川の情景」という標題が添えられています。弦楽器がさらさらと流れる小川を表現し、さらには小鳥の鳴き声も登場します。フルートがナイチンゲール、オーボエがウズラ、クラリネットがカッコウを模倣する場面は、まるで音の森林浴。散歩を日課としていたベートーヴェンにとって、自然がもたらす喜びは創作力の源になっていたのでしょう。
 ベートーヴェンが描いたのはごく小さな川でしたが、スメタナは交響詩「モルダウ」で大河を表現しました。山奥のふたつの源流が合流して、だんだんと大きな川になる様子が雄大なサウンドで表現されています。狩のホルンが聞こえたり、結婚式の踊りの音楽が登場したり、とても描写的な曲です。この曲は合唱曲としても親しまれていますし、さまざまな形でカバーされていますので、耳なじみのある方も多いのではないでしょうか。
 スメタナはチェコ国民楽派の創始者として知られる作曲家です。代表作は連作交響詩「わが祖国」。祖国の伝説や自然が題材になった全6曲からなる大曲で、その第2曲が「モルダウ」です。建国にまつわる神話や英雄たちの戦いなどと並んで、モルダウ川(ヴルタヴァ川)がとりあげられているのですから、川がその土地にとって大切なシンボルであることがよくわかります。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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「60周年記念企画②夢の対談が実現した音楽会」後編

投稿日:2024年05月18日 10:30

 今週は先週に続いて番組60周年記念企画第2弾といたしまして、「ボーダーレス」をテーマにピアニストの藤田真央さんと宇宙飛行士の野口聡一さんの対談をお送りいたしました。これから目指す道や人生観などについて、興味深いお話がいくつもあったと思います。
 藤田さんの言葉でとりわけ印象的だったのは、コンクールとのかかわり方。「いい意味でも悪い意味でも、典型的な演奏をしなければコンクールでは賞を獲れない」というお話がありました。中立的な採点が求められるコンクールの場では、どうしてもそうなってしまうのでしょう。しかし、藤田さんは20歳でチャイコフスキー国際コンクールの第2位を獲得しましたので、早い段階から今までになかった解釈での演奏にも取り組むことができるようになったと言います。「1小節1音ずつ考えることがいちばん重要」と語っていたように、真摯に楽譜に向き合う藤田さんの姿勢が、コンクール後の輝かしいキャリアの原動力になっているにちがいありません。
 野口さんのお話では宇宙飛行士ならではの「ボーダーレス」への視点がおもしろかったですよね。国ではなく大陸で人種を見るようになりアジア人としての自分を意識するようになったと言います。やがて人類が他の星に行くと、「地球人っぽい」という感覚が生まれるかもしれないという指摘には夢を感じました。
 藤田さんが演奏してくれたのは、セヴラック作曲の「セルダーニャ~5つの絵画的練習曲」より第2番「祭り(ピュイセルダの思い出)」。セヴラックはフランスの作曲家ですが、パリを中心とする楽壇からは距離をとり、生涯の大半を南フランスで過ごしました。南仏の土地に根差したローカル色豊かな作風が特徴とされています。セヴラックはスペインの作曲家アルベニスに師事し、両者は深い友情で結ばれていました。楽譜中でアルベニスとその娘について言及されるのは、そんなふたりの作曲家の結びつきがあったからなんですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画②夢の対談が実現した音楽会〜前編

投稿日:2024年05月11日 10:30

 今週は番組60周年記念企画の第2弾といたしまして、ボーダーレスをテーマにピアニストの藤田真央さんと宇宙飛行士の野口聡一さんによる対談をお送りいたしました。国境を超えて世界中で活躍する藤田さんと、地球を飛び出し、日本人として宇宙でもっとも長い滞在時間を過ごした野口さん。まさにボーダーレスなおふたりです。
 5年前、モスクワで開催されたチャイコフスキー国際コンクールで藤田さんが第2位を獲得した際に、プライベートで会場を訪れていたという野口さん。本当に音楽が大好きな様子が対談から伝わってきました。宇宙飛行士から見たホルストの組曲「惑星」のお話がおもしろかったですよね。ホルストの作品では「火星」が激しく闘争的な曲調で、「木星」が穏やかで優しい曲調で描かれていますが、実際の惑星の姿はむしろ逆だと言います。たしかに火星の地表の写真を思い出してみると、砂漠のような荒れ地が広がるばかりで、静かな印象がありました。なにしろホルストがこの曲を書いたのは1916年のことですから、惑星が現実の姿よりも占星術的なイメージにもとづいて描かれるのは自然なことでしょう。
 藤田さんが演奏してくれた一曲目は、野平一郎作曲による「音の旅」より「舞踏会にて」。野平一郎さんは現在の日本を代表する作曲家のひとりです。パリ国立高等音楽院に学び、現代音楽の世界で国際的な活動をくりひろげています。そんな野平さんが、こどものためのピアノ曲集として作曲したのが「音の旅」。藤田さんが楽しそうに演奏している姿が印象的でした。
 二曲目はシューマンの大傑作、「クライスレリアーナ」の第5曲。曲名はE.T.A.ホフマンの著作に登場する「楽長クライスラー」に由来し、シューマンはこの架空の人物に結婚問題で苦しむ自分自身の姿を重ね合わせていました。
 最後の曲は藤田さん得意のモーツアルト。隅々まで生気にあふれた演奏で、ずっと聴いていたくなります。まさに「天衣無縫」という言葉がぴったりですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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未来への扉!ニュースターの音楽会2024

投稿日:2024年05月04日 10:30

 今週は注目の若手音楽家をいち早くご紹介するシリーズ企画の第2弾。ヴァイオリニストの東亮汰さんとトランぺッターの児玉隼人さんをゲストにお招きしました。
 東亮汰さんは現在24歳。2019年の第88回日本音楽コンクールで第1位を獲得しました。昨年、メジャー・デビューとなるアルバム「Piacere~ヴァイオリン小品集」をリリース。アニメ「青のオーケストラ」で主人公のヴァイオリンの吹き替えを担当したことでも話題を呼びました。
 東さんによるラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」第18変奏は情感豊か。原曲はピアノ曲ですが、ヴァイオリンで聴いても、やはりすばらしいですね。ブラームスのヴァイオリン協奏曲は日本音楽コンクールで第1位を獲得した際の演奏曲。気迫のこもったソロでオーケストラとともに雄大な音楽を紡ぎ出します。つややかで輝かしいヴァイオリンの音色も印象に残りました。
 極度のあがり症という東さんの秘策は、「本番前に全力ダッシュして心拍数を上げる」。いったん上げてしまえば、あとは自然に下がるだけという逆転の発想です。機会があったら試してみてもいいかも?
 児玉隼人さんは14歳のトランペッター。なんと小6で初のソロ・リサイタルを開き、オーケストラとの共演は10回を超えるというのですから驚きです。故郷の釧路で世界的トランぺッターのアンドレ・アンリが演奏会を開いた際に、楽屋を訪れて演奏を聴いてもらったことが運命の出会いとなりました。特定の先生につかず、ふだんはYouTubeを参考にして練習をしているというお話にもびっくりしました。
 久石譲作曲「天空の城ラピュタ」の「ハトと少年」では爽快な音色を堪能させてくれました。フンメルのトランペット協奏曲はトランペット奏者には欠かせないレパートリー。テクニックを要求される曲ですが、児玉さんの演奏はすこぶる軽快。晴れ晴れとした気分にしてくれます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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